地球と共生するクルマ社会に向けた環境対応技術
燃費向上,排ガス規制対応のため,日立オートモティブシステムズ(株)では電動パワートレインのさらなる小型,高出力密度,軽量化を推進している。インバータ,モータ,バッテリーの製品およびその組み合わせのソリューション技術を提供し,自動車の環境対応に貢献している。
自動車用パワートレインは長らく内燃機関が用いられその進化を続けてきたが,今世紀に入って地球環境保護のためのCO2削減の取り組みが全世界的に推し進められ,2020〜2025年ごろまでには現状の内燃機関のみの車両では規制への対応に限界がくると見られている。こうした背景から,環境へ対応する自動車として,ハイブリッド電気自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)および電気自動車(EV:Electric Vehicle)の導入拡大が全世界的に進む見通しである。
日立オートモティブシステムズ株式会社では1990年代からこれらの電動車両に向けた電動パワートレインの開発と供給を進めており,今後の環境対応自動車の拡大に向けてさらなる技術開発と性能向上を推進している。
本稿では,これら電動車両の電動パワートレインを構成するインバータ,モータ,バッテリーの電動コンポーネントの技術および電動コンポーネントを迅速かつ最適に組み合わせるシミュレーション分析技術について述べる。
車載インバータは,駆動時は車載バッテリーに蓄積された直流電力をPWM(Pulse Width Modulation)制御により交流電力に変換してモータ駆動を行い,回生時はエネルギー回生動作によりバッテリー充電を行うが,搭載スペースの制約が厳しい車載用途においては常に小型化が求められている。このため,パワーモジュールを主体とする主回路の高パワー密度技術の開発が進められてきた。また,これと並行して,車両コントローラとの通信により,駆動トルク制御,モータ回転数制御,エネルギー回生制御などにより,電動車両の基本的な動力性能に直結した機能を実現しつつ,異常検知,故障診断,ISO26262で規定された機能安全対応などを考慮した高機能制御回路技術も求められている。
こうした車載用途における要求の実現のために,高電圧主回路と高機能制御回路の革新,また,これらを小型パッケージに搭載し,車載用途の耐振,耐熱,耐環境耐久性を有する構造設計技術の進化が必要になっている。
通常の450 Vdcクラスのバッテリーが搭載された電動車両のインバータにおいては,高電圧主回路が体積の過半を占めるため,小型化のためには主回路構成部品の改良がポイントになる。日立オートモティブシステムズでは,最も発熱量が大きく,また,大型部品である高電圧パワーモジュールについて,グリースを介さず冷却水で直接冷却する両面冷却パワーモジュール技術(図1参照)を開発し,インバータの大幅な小型化を実現した。直接両面冷却構造により熱抵抗を大幅に低減し,これによって電流増加を可能とし,パワー密度が向上した。また,この両面冷却パワーモジュールは,搭載チップと実装の一部を変更することにより,車両重量クラスに応じた電流仕様のスケーラビリティが可能である。また,2in1構造とすることで小型化するとともに,主回路インダクタンスを低減して発生損失を低減でき,さらに,インバータパッケージ内のレイアウトの自由度を確保できる構成となっている。
車載インバータでは,電動車両の始動,加減速,停止の基本動作に応じて,電圧電流,動作周波数を可変とした高機能ベクトル制御動作が求められる。また,CAN(Controller Area Network)やFlex-Rayによる大容量高速通信,異常検知,トルクセキュリティ,故障診断,機能安全などへの対応が必要である。
このような要求に対応するため,高性能CPU(Central Processing Unit)を搭載し,機能回路を小型化した高機能モータ制御回路技術を開発した。また,制御回路の駆動信号に応じて主回路パワーモジュールを動作させるゲート制御回路は,パワーデバイスの進化に対応した高速大電流動作と保護動作の確保を両立させることが求められる。このため,高性能IC(Integrated Circuit)を採用し,小型化したゲート制御回路を開発した。
これらの技術を採用し,さらに,車載搭載要求に合致しつつ,高信頼性,高耐久性を実現した小型高信頼パッケージ構造技術を開発して製品に適用している。図2は製品の一例であり,当社従来比40%の小型高出力化が実現されている。なお,この製品では最大効率94%の高効率DC(Direct Current)-DCコンバータも同時開発している。
今後,パワーモジュールの一層の進化や,次世代低損失SiCパワー素子の搭載の実現,また,駆動方式の進化を図ることで,インバータのさらなる小型化,電動車両のバリエーションの拡大,加えて,EV走行距離の拡大も可能となる。
標準モータ構想は,高性能(小型・軽量,高出力,高効率,低騒音・低振動)ながらも,HEV,EV,PHEV(Plug-in HEV)など複数の電動車方式や,さまざまな車格に共通して適用可能なモータ仕様を設定することで,複数案件に対応する場合の開発工数低減と,構成部品,生産設備およびモノづくりの共通化により開発効率を向上させつつ,低価格なモータを開発するというコンセプトである。これを可能にするためには,さまざまな車格で共通的に車両レイアウトが可能なモータ寸法,広範囲な要求出力をカバーできる出力特性,電動車方式の特性に応じた時間定格など,幅広い使われ方に対応できるバリエーションの設定が必要となってくる。
標準モータのステータ巻線方式は,小型・高トルク密度化を図るため,電線に角線を用いた波巻方式とした。従来の丸線分布巻方式に比べ占積率(導体面積/スロット面積)を20%向上可能で,モータの出力トルク密度(出力トルク/ステータコアD2×L)を15%程度向上できる。なお,波巻のセグメントコイルはコイルの直線部の長さを変えることで,ステータ積厚バリエーションにフレキシブルに対応できる。
HEV,EV,PHEVなど複数の電動車方式,およびさまざまな車格に共通して適用できるモータ仕様を波巻方式にて対応可能にするため,4種類の外径と1スロット当たりのコイル本数の設定を行った。
図3にステータ外径と1スロット当たりのコイル本数を示す。ステータ外径φ200 mmで1スロット当たり4本を基準とし,外径側に2本加えて,1スロット当たり6本とし,ステータ外径φ215 mmとしたもの,外径側に4本加えて,1スロット当たり8本とし,ステータ外径φ230 mmとしたもの,φ200に対し,内径側に2本加え,外径側の2本を減らして,1スロット当たり4本とし,ステータ外径φ185 mmとしたものがある。
図3|ステータ外径と1スロットあたりのコイル本数ステータ内径を固定としスロット内のコイル本数とステータ外径のバリエーションによりさまざまな特性のモータに対応可能とする。
ステータ内径は最も小さいφ185の内径であるφ129.5を基準とし,外径φ200,φ215,φ230のステータを生産する場合はコイル2本分のコア内径側治具を用いることで,設備の共用化を可能としている。
これら4種類のステータは,同一設備での生産が可能であり,長尺円筒タイプのEV用モータからHEV用としての扁(へん)平円筒タイプまで,さまざまな出力特性およびモータ外径寸法に対応可能である(図4参照)。
上述の工夫により外径を可変にすることが可能で,また波巻の採用により,積厚も可変にできるので,さまざまな電動車用モータの要求仕様に,同一生産設備で対応可能となった。
図4|φ200,215,230の場合のトルク/出力特性外径,積厚を可変にすることによりさまざまな特性のモータに対応可能となる。
近年,乗用車の燃費改善技術として,電池とモータのパワーを使用して,ガソリンエンジンによる走行をアシストすることを目的としたマイルドハイブリッドシステムが注目されている。マイルドハイブリッド車両の生産台数は,グローバルで2016年の約45万台から2023年には1,280万台を越えると予想7)されており,特に欧州や中国では,比較的安価に燃費を改善できる技術として48 Vリチウムイオン電池によるマイルドハイブリッドシステムが急速に普及すると見込まれている。こうした動向を踏まえ,ハイブリッド車両向けリチウムイオン電池セルの製造技術と,BMS(Battery Management System)技術を結集し,2016年3月にマイルドハイブリッド車両向け48 Vリチウムイオン電池パックを開発発表した。
リチウムイオン電池は,リチウムイオンが電極の材料に出入りすることで充放電する。これまでは,電池の出力密度を高める方法として,電極の膜厚を薄くして抵抗を減らすことが一般的であった。しかし,出力密度が高まる代わりに,蓄えられるエネルギーが減ってしまうという課題があった。新しいリチウムイオン電池パックは,セルの電極の構造をミクロンレベルで改良し,リチウムイオンが流れやすい構造にすることで,薄くしなくても抵抗を低減し,出力密度を高めた。さらに,正極,負極それぞれの材料組成を改良し,単位重量当たりに蓄えられるリチウム量を増加させることでエネルギー密度を高めた。これらの技術により,従来比8)1.25倍の出力密度と,従来比8)1.5倍のエネルギー密度を同時に実現している。
また,セルの内部抵抗を抑え,発熱量を低減したことに加えて,リチウムイオン電池パックの筐(きょう)体に熱伝導性や放熱性の高い金属を採用したことにより,冷却用ファンを不要とし,設置の自由度を高める薄型化を実現するとともに,静粛性の向上を図っている(図5参照)。
出力密度の向上により,モータの加速アシストにおけるトルク特性の向上が図れ,最大出力12 kWを実現することができ,発進時の力強い走りを可能にしている。また,最大入力についても15 kWを可能とし,急減速時に生じる瞬間的に大きな回生エネルギーも回収可能とし,エネルギーの損失も低減している。こうした入出力特性の向上に加え,エネルギー密度の増大により,燃費向上に貢献する(表1参照)。
また,日立オートモティブシステムズのリチウムイオン電池は,優れた耐久性,環境性,安全性を有している。これらの特徴を生かし,日立建機株式会社との共同開発により,ハイブリッド油圧ショベルZH200-6用リチウムイオン電池モジュールを開発し提供している。
電動コンポーネントは個々の性能はもとより,最終的には組み合わせでいかに所望の性能を達成するかが重要なポイントである。さまざまな製品の集約体である自動車において,部分最適のみでは高性能な車両とは成り難い。日立オートモティブシステムズでは,これら電動コンポーネントの組み合わせにおいて,シミュレーションを用いた解析により,組み合わせについてより適している製品仕様および制御技術について検討を行っている。
電動パワートレインシステムは,電気によるエネルギーを用いた動力発生源であるとともに,システム内でトルクを発生し回転体などが動作する部分を含むメカトロニクス製品でもある。
そのため,そのシステムの最適化においては,動力性能のみならず,車両に搭載した際のメカトロニクス領域であるNV(Noise-Vibration:ノイズ/振動)まで含めた分析と検証が必要である。高い動力性能を発揮していても,高騒音では自動車としての商品性が成立しない。
日立オートモティブシステムズでは,先に述べたエネルギーとNVまでをシミュレータ上で連成したシステムシミュレータを開発し,開発段階での電動コンポーネントの性能検証,および現物試作前でのNV評価と必要なメカ設計の改良などを行えるような開発を行っている。
従来のシミュレーションではエネルギーとNVは個別の分析であることが多かったが,その際にメカトロニクス製品として連成したときに実機が発生する振動,騒音,熱については実機を試作し評価するしかなく,これが時に大きな設計手戻りを生じさせる要因となっていた。これに対し,連成シミュレータを適用することにより,試作レスの段階で振動,騒音,熱に関する事前検討と改善策の織り込みが可能となり,製品段階での検証と性能確保がより確実となった(図6参照)。
図6|エネルギー+NV連成シミュレータバッテリー→インバータ→モータと流れるエネルギーフローの分析および,その際に発生するメカ的な現象(騒音/振動,熱)までをすべて連成してシミュレーション分析し,製品設計に反映する。
本稿では,電動車両を構成する電動パワートレインのコンポーネントであるインバータ,モータ,バッテリーおよびそれらの組み合わせのシミュレーション技術について述べた。
パワーエレクトロニクスとマイコンの進化に支えられた電動コンポーネントは自動車用パワーユニットとしてさらに進化を続ける。日立は,今後拡大していく環境対応自動車のニーズに応える製品開発を推進することによって地球環境保護へも貢献していく。