長年,プロダクトデザイナーとして,個人が所有するモノのデザインを数多く手がけてきましたが,現在の私の興味は,多くの人が共有する公共空間へと向かいつつあります。その理由は,現状の公共空間が,バリアフリーやユーザビリティーには配慮されているものの,デザイン面からみれば比較的,無頓着に扱われてきたことにあります。
中でもエレベーターは無意識に利用されている公共空間の典型的な移動体であり,高層化が進む都市に不可欠な重要インフラでありながら,そのデザイン性が深く追求されてきたとはいえません。そうした人間の身の周りにあって,人間が無意識のうちに関係性を築き,当たり前のように利用している公共空間の「心地の質」を向上させることで,「人間生活の真の豊かさに貢献したい」,「人をやさしく包み込み,心地よさを感じさせる空間をつくりたい」,という強い思いがありました。