低炭素社会をめざす産業分野の環境適合技術
日立の創業製品である回転機とその応用製品は進歩を続け,社会イノベーション事業において大きな役割を果たしている。回転機と同じく約130年前に発見された電磁誘導を基本原理とする変圧器も,電力の安定供給に貢献してきた。
日立は,顧客の課題や経験を理解し,潜在的な真のニーズを共有することで,新たな価値創出を可能とする環境適合型革新プロダクツを提供している。エネルギーや水,気候変動などをめぐる地球的課題を克服し,持続可能な社会の構築をめざしていく。
日立製作所インダストリアルプロダクツビジネスユニットと株式会社日立産機システムは,モータ,インバータ,コントローラ,開閉器などの組み込み系コンポーネントと,それらを用いた空気圧縮機や変圧器,受変電・風水力機器,ホイスト,エアクリーナなどの産業系設備を提供している。
これらの機器は,製造業や資源,エネルギー関係をはじめ,幅広い事業分野を支えるキープロダクツである。
モータやインバータ,コントローラは,エネルギーの効率的活用を実現するドライブシステム,パワーエレクトロニクス応用製品として製造業や鉄道などの省エネルギー性を実現している。また,ポンプ,ファン・ブロワ,空気圧縮機を中心とした設備機器では,空気やガス,水などの流体を高い信頼性と安定性で発電プラントや上下水設備に供給し,社会・産業インフラを支えている。さらに,受変電配電機器は社会インフラの中核である電力の安定供給に貢献している。
これら機器類の高効率化と小型・軽量化を追求することが低炭素社会を実現する。以降の各論文では,静止機器である高効率変圧器の開発,回転機の環境負荷低減技術と信頼性の向上,新型省エネルギー空気圧縮機,産業分野へのIoT(Internet of Things)対応機器とビジネス展開を紹介する。
「気候変動に関する国際連合枠組条約」の京都議定書が発効した2005年時点での日本の温室効果ガス排出量と国内の電力消費割合を図1に示す。温室効果ガス排出削減には,産業と運輸部門での対策が効果的であり,また,モータの消費電力低減が急務であることが分かる。モータは産業や都市,家電などさまざまな分野で多用されている。その効率を1%向上させることは約100万kWの発電所1基分の削減に相当する計算になる。
図2に示すように,日立は創業以来,5馬力モータのロータ,フレーム,絶縁材料とそれに伴う製造方法を見直し,モータの小型・軽量化,高効率化を実現してきた。小型・軽量化は省資源であるだけでなく,輸送時の効率向上にも貢献できる。当初約140 kgであった重量は約1/5にまで軽量化してきた。
図2|5馬力(3.7 kW-4極)誘導モータの変遷創業以来,5馬力誘導モータは小型・軽量化を続けてきた。小型・軽量化は省資源であるとともに,輸送時の効率向上にも貢献する。
産業用モータの効率はIEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)によりIE(International Energy-efficiency)コードとして標準化されている。日立産機システムでは,鉄基アモルファス金属の特性を生かし,現在最高の効率に位置づけられるIE5モータを開発した。
アモルファス金属とは,結晶構造のない非晶質金属の総称であり,ここでは1960年代に発見され,1970年以降実用化検討が進められた鉄を主成分とする鉄基アモルファスを用いた。図3に示すように,透磁率が高いので効率の良い鉄心を作製でき,ネオジムやディスプロシウムといった希少金属で構成されるネオジム磁石を使わなくても高磁束密度を実現できる。また,鉄損が低いことも特徴である優れた軟磁性体である。
図3|鉄基アモルファス金属薄帯の特徴鉄基アモルファスは透磁率が高く,鉄損が低いことが特徴である。一方,板厚が薄く,硬くもろいため非常に扱いが難しい。
しかし,鉄基アモルファスは,厚さが数十マイクロメートルの薄帯で,ビッカース硬さが900 HV以上のガラス質である。そのため,硬くてもろく非常に扱いが難しい材料である。日立産機システムでは,鉄基アモルファスの特徴を生かした変圧器を1991年から製品化しており,ここで培われたノウハウが複雑形状であるモータ鉄心作りにも生かされた(図4参照)。
図4| アモルファス変圧器で培ったものづくり技術によるアモルファスモータの開発日立産機システムは,1991年から製品化しているアモルファス変圧器のものづくり技術を生かし,鉄基アモルファスを用いたモータを試作した。この試作モータは,11 kW定格出力点において96%の効率を示した。
図5|インダストリアルプロダクツとIoT(Internet of Things)生産システムは,さまざまなつながる機器によって構成されている。これらを制御,運用する一方で,コントローラやM2M通信デバイスなどのつなげる機器を加えることでLumadaとの連携が可能になる。
日立は,ITとOT(Operational Technology)を組み合わせた社会イノベーション事業をグローバルに展開している。顧客視点で顧客が抱える課題の発見とソリューションを提供していく。
図5に示すように,圧縮機やモータ・インバータ,ファンやブロワなどのつながる機器で構成される生産システムを高精度に制御,運用する一方で,コントローラやM2M(Machine to Machine)通信デバイスなどつなげる機器の充実を図ることで,日立のIoTプラットフォーム「Lumada」との連携を可能にしていく。
日立は,環境と省エネルギーに貢献するプロダクツの開発を継続するとともに,IoTが進展する市場の変化を的確に捉え,つながる・つなげるニーズに応えてLumadaを活用しながら社会イノベーションに貢献していく。