暮らしの安全・安心を支える防災・セキュリティソリューション
近年,社会情勢の不安定化に伴って,テロ・犯罪などの脅威は増加かつ多様化している。
本稿では,フィジカルセキュリティシステムやIoTセンサーで取得したフィジカル空間の情報を見える化・分析することで,人やモノの動態管理を行い,社会インフラのセキュリティ強化やビジネス進化へつなげる「エリアセキュリティ」の取り組みについて紹介する。
近年,発電所・空港・駅・街区・工場・テーマパークなど,人々の暮らしを支える社会インフラは,社会情勢の不安定化やテクノロジーの発展などにより,さまざまなテロや犯罪の脅威にさらされている。
日本国内においては国際的な大規模イベントを控え,また世界では事業継続に大きな影響を与えるサイバーテロや人々が集う場所を狙った爆破・銃撃テロが発生するなど,社会インフラにおけるセキュリティ強化は急務となっている。
本稿では,社会インフラにおけるセキュリティ対策の課題を背景にIoT(Internet of Things)を活用したセキュリティ進化の方向性を述べ,日立が推進するエリアセキュリティの取り組みについて紹介する。
社会インフラにおけるセキュリティ対策の考え方は,国・業界あるいは事業者自身によって各種セキュリティガイドラインとして策定されている。これらのガイドラインに従ってセキュリティ対策を行う場合,事業者としての基本方針を決定し,リスクの洗い出しや脆(ぜい)弱性診断を行い,優先順位を付けて対策していく必要がある。特に,セキュリティの強靭(じん)化を図るためには,サイバーセキュリティおよびフィジカルセキュリティの技術・運用面での対処を組み合わせ,多層・多重で防御することが重要である。
しかし,セキュリティ対策費用は社会インフラ事業者にとって単なるコストであり,過剰な対策は経営上の負担であるという見方から,対策の決定には慎重な検討が重ねられる。その結果,適切な対策範囲を判断できず,脆弱性や老朽化の問題を抱えたまま,セキュリティ対策・強化を先送りしてしまうケースもある。
社会インフラにおける安全・安心の確保にセキュリティは不可欠であるが,セキュリティ対策・強化を加速させるためにも,これらの費用をコストではなく投資と位置づけ,業務改善・経営課題解決・新事業創生など,事業者のビジネス進化に貢献していくことが,IoT時代のセキュリティソリューションに求められる新たな価値であると考える(図1参照)。
図1|社会インフラにおけるセキュリティ対策の課題と進化の方向性社会インフラ事業者にとってセキュリティ対策は単なるコストではなく投資と位置づけ,新たな価値を創出するための仕組みが必要である。
セキュリティが社会インフラ事業者のビジネス進化に貢献するためには,内閣府がSociety 5.0の推進に向けて提唱しているICT(Information and Communication Technology)を活用したサイバー/フィジカル空間の融合がキーワードになると考える。
具体的には,人やモノを監視するフィジカルセキュリティシステムによってフィジカル空間の情報をデジタルデータとして密に収集し,断片的かつ離散的にしか把握できなかった人やモノの動きや状態をサイバー空間上で見える化・分析する。これにより,人やモノのシームレスな監視だけでなく,事業者にとって有用な情報へ変換したり,フィジカル空間へフィードバックを掛けたりするなど,新たな価値の創出につなげることができると考える。
日立は,このようなデジタルトランスフォーメーションを実現する基盤として,フィジカルセキュリティ統合プラットフォームを開発した。
今回開発したフィジカルセキュリティ統合プラットフォームは,防犯カメラや入退室管理などのフィジカルセキュリティシステムや位置情報計測・環境計測などのIoTセンサーによって,社会インフラの現場におけるフィジカル空間(監視対象や業務オペレーションなど)の情報を収集・蓄積・見える化し,AI(Artificial Intelligence)やアナリティクスソフトウェアを活用して人やモノの動態(動線・動作・状況)を分析することで,セキュリティ強化や業務改善・経営課題解決・新事業創生などの価値創出に貢献するソフトウェア基盤である(図2参照)。
図2|フィジカルセキュリティ統合プラットフォームの概要フィジカル空間の情報を収集・蓄積・見える化し,人やモノの動態を分析することで,セキュリティ強化や業務改善・経営課題解決を行う。
本プラットフォームのソフトウェア基盤は,大きく分けて3つのフィールドで構成される(図3参照)。
どのフィールドもオンプレミス(自社運用型)とすることが可能であるが,管理・運用面などの観点から情報&制御フィールドとデータフィールドをクラウドに構成してフィジカルフィールドと連携させることもできる。
本プラットフォームには,各種のシステム・装置・機能と連携する標準プラグインモジュールを多数用意しており,必要なセキュリティ対策や顧客のニーズ・課題に合わせ,各フィールドにモジュールを選択実装することで各種ソリューションを提供する。
フィジカルフィールドにはフィジカルセキュリティシステム・IoTセンサー・映像解析機能などと連携するモジュールを実装し,情報&制御フィールドにはレポート出力・設備制御といった人やモノの動態を見える化・分析・制御するモジュールを実装する。そして,データフィールドでは,データの収集・蓄積を行うとともに,フィジカルフィールドと情報&制御フィールドを連携させることで管理側での動態管理や現場側へのフィードバックを可能とする。
図3|フィジカルセキュリティ統合プラットフォームの構成フィジカルフィールドと情報&制御フィールドに必要な機能をプラグイン(実装)し,データフィールドでデータの収集・蓄積・連携を行う。
本プラットフォームには,前述の構成やプラグイン方式により,以下の3つの大きな特長がある。
日立は,社会インフラのセキュリティ強化やビジネス進化を実現する各種セキュリティソリューションを「エリアセキュリティ」と称して展開していく。
エリアセキュリティは,発電所・空港・駅・街区・工場・テーマパークなど,社会インフラのさまざまなエリアを対象としている。以下に,フィジカルセキュリティ統合プラットフォームを活用したソリューション事例を紹介する(図4参照)。
図4|エリアセキュリティにおけるソリューション提供例現場における人やモノの動態管理により,セキュリティ強化だけでなく,業務効率化や生産性向上などのビジネス進化にも貢献する。
人の動態管理にあたっては,プライバシー保護に十分な注意を払う必要がある。特に,カメラ映像(画像)の利活用については,産官学が参画するIoT推進コンソーシアムにおいてガイドブックを策定し,事業者が配慮すべき事項を整理するといった動きもある。
日立は,カメラ映像に限定せず,データの利活用に取り組む事業者として,独自のチェックリストに基づくプライバシー影響評価を実施しており,その内容は最新の動向も踏まえて継続的に改善している。
日立は,このような取り組みを通じ,顧客のビジネス運用を支援する際にも適切なパーソナルデータの取り扱いに努めており,プライバシー侵害が問題化することを未然に防止している。
本稿では,日立が推進するエリアセキュリティの取り組みについて紹介した。
顧客の状況や課題を十分に把握し,顧客と一体になって適切なソリューションの選択や導入計画・運用方法の検討を行うことが重要である。
今後も,価値創出に向けた最先端技術の研究開発など,日立はセキュリティを進化させ,社会インフラのセキュリティ強化とビジネス進化を支えていく。