8.英国高速鉄道IEP車両営業運転開始
2017年10月16日,英国における日立初の都市間高速鉄道計画(IEP:Intercity Express Programme)の列車が営業運転を開始した。
運転初日は,ロンドンとレディング,ブリストル,バース,カーディフなどの主要都市を結ぶGreat Western本線において,4編成が運行し,ブリストル‐ロンドン間を走行した始発には一般の利用客のほか,運輸大臣など複数の政府高官が乗車した。初日にはいくつかのトラブルが発生したものの,その後,4編成の列車は約8,000 kmを走行し,初週の運転を終えた。
地域住民の通勤・通学の足であり,観光客の移動手段でもある同路線の利用者数は,年々増加している。日立のIEP車両は,こうした人気路線の旅をより快適に進化させるものである。新しい車両は従来比24%増の座席数と,ゆったりとした足元空間,広い荷物置き場を実現しており,車内では高速Wi-Fi*通信や,各座席に備えつけの電源用コンセントが利用可能なほか,座席上部のデジタル表示により座席予約状況を確認することができる。
Great Western本線は電化の途上にあり,架線などインフラの更新が継続して行われている。そのため鉄道車両が電力によって走行できるのは,路線全体の中のごく一部の区間に限られているのが現状である。この課題を解決し,英国の鉄道利用客に最新の列車をいち早く提供することを可能にしたのが,日立のバイモード技術である。電化/非電化区間共用車両として設計された車両は,走行の途中でも乗客に影響を与えることなく,電力駆動とディーゼルエンジン駆動をシームレスに切り替えることができる。これにより,設備の更新が完了していない路線においても新型車両を導入することが可能となるのである。
同IEP車両の運行初日は,英国の鉄道業界にとって歴史的な一日となった。日立の最新型車両が,製造から40年の時を経た古い車両に代わり,1838年に初めて敷設された線路の上を走ったのである。英国が新型鉄道車両への投資を歓迎している中,先駆的なIEP車両は同国における鉄道輸送の新時代の象徴となった。
IEP車両の初運行は,国境を越えて組織された日立のプロジェクトチームの9年間にわたる努力の結晶であった。今回,日立が請け負った122編成のIEP車両の製造・保守業務は,英国政府が57億ポンドを投じるIEPの一環である。Great Western本線では57編成が運転される予定であり,2018年からは残る65編成がロンドンとスコットランドを結ぶEast Coast本線で運行を開始する予定である。
2008年にIEPの入札に参加し,2012年に契約を締結して以降,英国における日立の鉄道事業は劇的に存在感を増し,新しいオフィスや整備拠点に加え,さらには製造工場までもが次々と始動した。約8,200万ポンドを投じたダーラム州ニュートン・エイクリフの鉄道車両工場では,現在,新たなIEP車両を製造中である。工場は2015年に建設されたばかりであるが,Great Western本線にて旅客運転を開始した車両を含め,既に多数のIEP車両を製造している。
このIEP車両は正に,日立が取り組むグローバルなプロジェクトの縮図である。日本の笠戸事業所で製造された車両構体が英国のニュートン・エイクリフの車両工場へ輸送され,仕上げが行われた。この一大プロジェクトを滞りなく完遂するべく,契約を締結したその時から,日英の関係者が密接に連携してきた。笠戸事業所の製造チームが英国の車両工場を訪れて指導を行ったほか,水戸や東京などの各拠点も緊密に同プロジェクトをサポートした。
今回の契約には,新たに製造された車両の今後27年半に渡る保守・整備も含まれている。このため日立は約2億5,000万ポンドを投じて,英国各地に近代的な車両基地を新設した。Great Western本線の沿線では,ブリストル,ウェールズ,ウエストロンドンで,新型車両のメンテナンスのための車両基地が始動している。専門の作業チームが日々,列車の点検・清掃を行い,各車両のコンディションを整えて利用者のもとへ送り出している。これらの車両基地は清潔で明るく,作業者が高いパフォーマンスを発揮できるよう,最新のテクノロジーが多数導入されている。
これらの車両基地を通じて地域社会に定着し,日立は沿線のステークホルダーや鉄道利用者との新しい関係を構築していく。その名前は,近代的な車両と洗練されたメンテナンスで鉄道の旅によりよい変化をもたらしたとして,英国内で広く知られることとなるだろう。
8-1.プラットフォームに進入するIEP車両の外観
8-2.客車内の様子(上),ロンドン郊外を走行するIEP車両(下)