日立は,デジタルサイネージ運用時の負荷を軽減し,より効率的な運用を提供する総合情報サービスを開始した。
防犯カメラやPOS,各種IoT機器からのセンサー情報やSNS投稿などをリアルタイムに収集・分析し,AI技術を駆使して,位置や時間に応じたコンテンツをリーズナブルに配信する。
デジタルサイネージ市場は,ポスターなどのアナログ媒体の電子化や,万一災害が発生した際の安全・安心のための活用,2020年の国際スポーツイベントでの訪日外国人対応などに向けて,今後ますます成長が見込まれている分野である。一方デジタルサイネージが街中で急速に増えており,多面展開する施設オーナーには管理コストの負担削減や,コンテンツを有効かつ効率的に配信管理するソリューション作りが喫緊の課題となっている。さらには高齢化,都市部と地方との情報格差などの社会問題に対して有効でタイムリーな情報発信が必要とされている。
これらの課題を解決すべく,デジタルサイネージ付近に設置したカメラ・センサー機器などからの情報や,設置場所に関連した天気,交通,SNS(Social Networking Service)などの各種情報を自動的に収集し,活用することとした。具体的には,配信コンテンツの内容とコンテンツ配信者が設定するターゲットに対して,収集した情報を基にAI(Artificial Intelligence)技術で最適な配信場所をマッチングさせる「総合情報サービス」を提供する。
デジタルサイネージとは,屋外,店頭,公共空間,交通機関などさまざまな場所で,ディスプレイなどのデジタル技術を活用して情報を発信するシステムである。
デジタルサイネージは大画面ディスプレイやネットワーク技術などの著しい進歩に伴い,コンテンツを表示したい場所・時に適切に配信・表示する技術の有効性についての認識が進み,急速に普及している。
またデジタルサイネージはOOH(Out of Home)メディアとして,テレビ・ラジオ・新聞に代わる新たな広告媒体としても期待されている。
日立グループ内におけるデジタルサイネージとしては,株式会社日立ケーイーシステムズのMediaSpaceが挙げられる。交通,流通,金融などのさまざまな分野で国内約3万面の導入があり,多機能で信頼性の高いプラットフォームをクラウドサービスとして提供している(図1参照)。
図1|MediaSpaceサービス概要サイネージプラットフォームであるとともにコンテンツ提供,運用サポート,システム監視,配信代行のサービスを提供する。
デジタルサイネージは導入後,コンテンツを継続的に更新する業務が不可欠となる。特に広告を取り扱うようなデジタルサイネージの運用は,例えば以下のような複雑・煩雑な業務を厳密に行う必要がある。
またこれらの業務に加え,ディスプレイの仕様に応じた複数のコンテンツ準備などの負担も増加している。さらにデジタルサイネージの急速な市場拡大のため,管理面数の増加や,多様なデジタルサイネージの出現により,施設オーナーや運用者の負担が増大している。
総合情報サービスは,これまでデジタルサイネージの運用時に負担となっていた業務の複雑さ・煩雑さを低減し,より効率的な運用を提供するサービスである。
具体的には以下の4つのサービスを提供している(図2参照)。
図2|総合情報サービスの概要防犯カメラ画像,店舗のPOS,SNSの書き込み,天気予報や施設内の各種センサー情報などをリアルタイムに収集・分析することで,サイネージやスマートフォンの位置・時間に対応したコンテンツを配信する。日立のAI(Artificial Intelligence)技術を駆使することで,タイムリーで最適なコンテンツを適切な場へ提供する。
デジタルサイネージにおける実務上のさまざまなオペレーションを共通のワークフローとして処理する機能を有したCMSを「インテリジェントCMS」として提供している。
共通配信プラットフォーム(以下,共通PFと記す。)は,総合情報サービスとさまざまな仕様のデジタルサイネージ配信システムとをつなぐインタフェースとして機能するクラウド基盤である。
共通PFを通してさまざまなロケーションの複数のデジタルサイネージ媒体にコンテンツを一斉に配信できる。施設オーナーにとっては,複数のデジタルサイネージ媒体に対する配信業務の一元化やリアルタイムで効率的な配信が可能となり,これまでのデジタルサイネージにはない運用を実現する(図3参照)。
図3|共通配信プラットフォームの概要配信システム各社との連携により,今までにないマルチベンダー配信サービスを実現する。
デジタルサイネージはIoT(Internet of Things)機器との連携により表示効果を具体的に確認したり,サービス提供内容を拡張したりするなどの効果を上げることが可能である。特に近年はカメラやセンサーの時間的・空間的分解能やソフトウェアによる分析能力が飛躍的に向上した結果,デジタルサイネージの設置場所における利用実態や効果を抽出しデータを有効化することが可能となっている。
本サービスではIoT,AI技術を活用し,デジタルサイネージの設置場所や時間に関する情報,表示コンテンツ,接触者のPOSやSNSなどによる行動結果の蓄積・分析などを行い,サービスの運用者に対して,コンテンツの最適な配信先,配信条件の提案や,自動配信などの機能を提供する(図4参照)。
図4|総合情報サービスが狙うサービスサイクルAI,センサーとサイネージを有機的に組み合わせることで,より付加価値の高い,成長する配信サービスを実現する。
流通業界においては,買回り品におけるEC(Electronic Commerce)の台頭による流通業界の変容の結果,あらゆる「ウリモノ」がサービス化していくデジタルトランスフォーメーションがメガトレンドとして押し寄せている。
一方,オムニチャンネル化やパーソナライズされたサービス提供により店舗回帰の傾向がある。また,人材不足や高齢化などの社会課題にも対応するため,宅配サービスや店舗のICT(Information and Communication Technology)による高度化が必須となっている。
これらの状況に対応する総合情報サービスは,OT(Operational Technology)×ITにより得られる膨大なデータを基に,IoTプラットフォームLumadaによって顧客に新たな付加価値を提示するものである。Lumadaを利用したデジタルサイネージ向け総合情報サービスにより,新しい「売り方」を実現しようとしている事業者と共に高付加価値サービスを協創し,店ナカ,街ナカ,家ナカの情報をつなぐことで人の生活行動接点をもつなぐ統合マーケティングプラットフォームへの成長をめざしていく。