新たなワークスタイルに向けた日立の取り組み
労働力不足の解消や労働生産性の向上を目的に,さまざまな企業でRPAの導入が進みつつある。RPAとは,一般的なロボットと同様,人間と同じように業務を行うソフトウェアロボットによって,間接業務を自動化する仕組みである。
日立は,ソフトウェアロボットによって複数の問い合わせを処理し,確信度に基づいて問い合わせを振り分け,確信度の低い問い合わせは人手で処理して,その結果をソフトウェアロボットが学習することで業務自動化の範囲を広げていく「成長型RPA」を研究している。日立グループの業務をフィールドとして,「帳票確認業務の自動化」と「問い合わせ回答業務の自動化」を対象に実証実験を実施し,それぞれ人手代替率74%および72%を達成した。
労働力不足の解消や労働生産性の向上を目的に,間接業務をソフトウェアロボットによって自動化するRPA(Robotic Process Automation)の導入が,さまざまな企業で進みつつある。ソフトウェアロボットは,一般的なロボットと同様,人間と同じように業務を行う,ソフトウェアに由来する言葉である。
日立は,導入が進んでいるRPAをレベル1「明確にルール化できる業務の自動化」と分類し,今後はレベル2「認識や判断など知的な処理を必要とする業務の自動化」への期待が高まると考えている。
このたび,レベル2のRPAとして,業務成果から徐々に知識を獲得することで業務自動化の範囲を拡大できる「成長型RPA」を開発し,実証実験を行った。本稿では,その成果について報告する。
成長型RPAは,画像や言語などの非構造化データを入力として受け付け,業務知識に基づいて,適切に処理する業務の自動化を対象とする。業務の自動化における課題は,以下のとおりである。
これに対し,日立の成長型RPAでは,以下の方法によって業務の自動化を実現する。
その概念的な構成を図1に示す。
入力データを受け取った認識AIが,処理結果を基に,さまざまな属性値を用い,確信度と呼ばれるスコアを出力する。確信度が所定の閾(しきい)値を超えている場合は,認識AIの出力結果のまま処理を終える。そうでない場合は,入力データを人手で処理する。このとき,人手による処理の結果を認識AIの学習用の正解データとして利用する。認識AIはこれを基に徐々に学習することで,業務の自動化範囲を拡大することができる。
この研究では,株式会社日立マネジメントパートナーで実施している帳票確認業務を自動化の対象とした。帳票確認業務の流れを図2に示す。
申請者は取引先などから受け取った請求書の記載内容に基づき,支払い依頼をシステムにて入力・申請する。同時に申請者は,日立マネジメントパートナーへ証拠として請求書原本を送付する。送られた請求書原本は案件ごとに画像データに変換され,入力作業者へ送られる。独立した2名の入力作業者が,請求金額など請求書に記載されている内容を画像データから読み取り,入力する。2名の入力したデータが一致し,かつ,申請者自身が入力・申請したデータと一致するとき,出金処理が実行される。そうでない場合は確認作業者にデータが送られ,データの確認・修正が行われる。
一連の確認作業では,2人の入力作業者と1人の確認者の人手が必要であるため,自動化が望まれていた。
帳票確認業務の自動化における課題は,以下のとおりである。
前述の課題に対し,成長型RPAの仕組みを使い,以下の方法で解決を図った。
帳票確認自動化後の処理の流れを図3に示す。
この帳票確認自動化システムを用いて,2016年度には日立製作所のデータを対象とした実証実験,2017年度には,日立グループのデータを対象とした実証実験を実施した。2017年度末の時点で,技術的には,毎月数万枚の帳票を確認している業務の74%が自動化できることを確認した。2018年度からは,業務への本番適用を開始している。
この研究では,日立マネジメントパートナーが行っている問い合わせ回答業務の中で,年末調整に関する問い合わせ回答業務を自動化の対象とした。
現在は,コールセンターのオペレータが,ユーザーからの電話での問い合わせに対して回答している。このとき,オペレータは,自分が持つ業務知識や,業務マニュアルに基づいて回答している。ユーザーを待たせないよう,できるだけ短い時間で回答することが望まれる。そのため,オペレータはあらかじめ業務について知識を持っておく必要があり,オペレータの訓練にはコストがかかる。
一方,問い合わせ回答業務では,頻出する問い合わせがある。そのような問い合わせに対しては,あらかじめ回答を準備しておき,システムによって自動的に回答することが望まれる。
問い合わせ回答業務の自動化における課題は,以下のとおりである。
前節で述べた課題に対し,成長型RPAの仕組みを用いて,以下の方法で解決を図った。
問い合わせ回答自動化処理の流れを図4に示す。
なお,対話AIを適用する場合,システム利用開始時に,十分な量のデータを問い合わせ回答データベースに登録しておく必要がある。実証実験では,業務マニュアルや過去の問い合わせ回答履歴(オペレータの対応報告書)を利用することにより,問い合わせ回答データベースを効率的に構築した。
このシステムを用いて,日立マネジメントパートナーの年末調整を対象とする問い合わせ回答業務において,実証実験を2017年10月から2018年1月にかけて実施した。その結果,法改正による変更がなかったトピックに関しては,コールセンターへの問い合わせが,約72%低減した。また,過去の問い合わせ回答履歴を用いて,問い合わせデータベースへ質問表現を追加し,質問表現の追加に必要なコストの削減効果を評価した。その結果,従来比でコストを約60%削減できることを確認した。
日立は,人による認識・判断を必要としてきたオフィス業務の自動化をめざし,成長型RPAを研究している。帳票確認業務の自動化については,業務への本番適用を2018年4月から開始している。また,問い合わせ回答業務の自動化については,2017年度に年末調整向けに実証実験を実施し,効果を確認した。2018年度は,適用する業務の拡大を計画している。
今後は,成長型RPAの適用範囲をさらに拡張し,業務の自動化を進めていく考えである。