Overview
2016年,日本を震撼(かん)させた労働苦による自殺というショッキングな出来事を背景に,長時間勤務を是正する働き方改革への取り組みが喫緊の課題となっている。
2016年,日本を震撼(かん)させた労働苦による自殺というショッキングな出来事を背景に,長時間勤務を是正する働き方改革への取り組みが喫緊の課題となっている。さらに,少子高齢化による働き手の減少,親の介護や子どもの養育のための職場離脱などの社会背景も加わり,官民を挙げての働き方改革の取り組みが始まっている(図1,図2参照)。
顧客のニーズの分布を図3に示す。顧客のニーズは,ワークスタイル検討のきっかけとなった残業抑制の方法に始まり,営業改革・人財育成・ヘルスケア・オフィス環境など非常に幅広く,複数のテーマを束ねて検討するケースや,テーマを絞って検討するケースがあり,中には検討の幅が広すぎて「そもそも何から手をつけていいかが分からない」といった声もある。そのため,ワークスタイルビジネスにおいては,単純に製品・ソリューションを提案するのではなく,顧客の課題を整理し,その対策を提案するコンサルティングセールスが必要となる。
また,これまでの活動を振り返って,顧客の問い合わせに登場するキーワードを整理・分類すると,「長時間残業の是正」ならびに「労働人口の不足」という2つの大きなテーマを中心として,さまざまな施策(手段)が検討されていることが分かる(図4参照)。このように,働き方改革を実現する手段は多種多様であるが,アプローチの方法を決定する前に,顧客によって異なる働き方改革の目的を明確にし,取り得る手段の選択肢を広げて,よりよい施策を検討する必要がある。そのため,働き方改革の検討においては,目的と課題を明らかにするコンサルティングと,課題解決を実現するソリューション・製品を幅広く提供できることが,サービサーである日立に求められている。また,日立の製品だけでは満たすことができない顧客のニーズについても,パートナー企業とのアライアンスによって幅広いソリューションとサービスで応えていく必要がある。
前述のように,顧客の働き方改革実現へのニーズは幅広く,また,目的と解決手段も多岐にわたる。そのため,最も大事なことは現在の課題の整理であり,かつ,暗黙知の課題をデジタル化(数値化)することである。
現状をデジタル化する目的は,KPI(Key Performance Indicator)の設定を容易にし,経営者に投資判断を行う材料を与えることである。また,施策(手段)の投資対効果を測定することで手段導入の成否判断ができ,加えて継続的に効果を観測することで,より働き方改革の取り組み効果を経営指標に結びつけることができるためである(図5参照)。
なお,働き方改革を検討することには,現状の業務を否定するという側面もあるため,顧客組織内にネガティブな反応を示す部署やメンバーが存在することが多々ある。働き方改革の取り組みの重要性が理解されるよう,現在の課題を数値化することが重要である。
そのため,働き方改革の推進には,以下のステップが必要となる。
図5|日立が考える働き方改革の進め方さまざまなデータから働き方を見える化することにより,「数値による現状把握」,「施策と目標効果の設定」,「継続的な効果測定」を進めていく。
日立ワークスタイル変革ソリューションは,日立が20年以上取り組んできた社内ならびに日立グループの働き方に関する取り組みをベースに,働き方改革を実現するコンサルティングをはじめ,顧客の課題を解決する複数のソリューション商品と,土台として必要となるIT環境サービスから成り立っている。
働き方改革を実現するニーズは多種多様であるため,顧客の抱えるさまざまな課題・ニーズに対し,日立の失敗・成功経験を踏まえて実現をめざしていく仕掛けが必要となる。このソリューションは業務を支えるさまざまな制度面の整備,作業効率や価値の向上を目的とした業務面の支援,フレキシブルに働く場所などのインフラ(環境)の提供で成り立っており,肝心な「検討の入り口」は顧客の抱える課題を分析・見える化するコンサルティングサービスとなっている(図6参照)。
図6|日立ワークスタイル変革ソリューションの全体像日立ワークスタイル変革ソリューションは,制度面の整備,業務面の支援,インフラ(環境)の提供から成り立っている。検討の入り口は顧客の課題を分析・見える化するコンサルティングサービスとなっている。
前章で述べたように,日立ワークスタイル変革ソリューションは日立の経験をベースに成り立っており,そこで得た成功体験やノウハウを商品化する仕組みとなっている。そのため,商品化に至る前段階において日立製作所ならびに日立グループ内で多くの失敗を経験している。失敗の主な理由は,ツール導入を先行して進めた結果,導入前後での効果が把握できなかったことや,ボトムアップで施策を遂行することによる部門間の連携不足などが挙げられる。また,施策の実行を現場に一任したことにより,現状の否定ができず,結局はほとんど何も施策が実行されないというケースもあった。
これらの経験により,働き方改革の実現には現状を否定し,かつ,部門間の壁を壊すことのできる横串組織をトップダウンで構築することが必要である。また,投資を伴うため,現状の把握とKPIの設定を行い,効果を経営数値に結びつけることも重要である。さらに,自部門だけでなく他部門の課題を指摘することや,現状の業務を否定することはストレスの掛かる作業となるため,第三者の立場であるコンサルティングファームを活用することも効果的と考える。日立のIT部門における働き方改革の例では,「トップダウンでの施策推進」,「デジタル(数値)化」,「第三者のコンサルティング」が成功要因として挙げられる(図7参照)。
また,日立のある営業部門で実験的に働き方改革の施策を行う部と行わない部で効果の検証を行ったところ,取り組みを行った部は行わなかった部より27%も高い受注率を達成した。受注は水物であるとはいえ,3割近い数字の差が出たことで,働き方改革が会社の経営に寄与することは疑いの余地がないといえるだろう。実際に働き方改革の取り組み後には,さまざまな効果が数値として表れている(図8参照)。
本稿では,日立の提供するワークスタイル変革ソリューションの成り立ちと仕組みについて解説した。働き方改革の取り組みに関し,日立が考える成功のカギは以下のとおりである。