新たなワークスタイルを実現する日立のソリューション
多くの企業においてホワイトカラーの生産性向上が課題となる中,AIが自然言語を理解し,チャット形式で社内やクラウド上にある情報を収集したり,業務を実行したりする「チャットボット」の活用が期待されている。
日立のAIアシスタントサービスはOffice 365(Skype for Business)をベースにしており,広範な社内業務に適用することが可能である。本稿では,対話を重ねることでより多くのデータを蓄積し,経験値を上げて精度を向上させながら個別のユーザーに合わせて最適化されていく日立のAIアシスタントサービスについて解説する。
日本の労働生産性は,OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development)加盟35か国中20位1)で加盟国平均を下回っており,低迷が続いている。政府が主導する「働き方改革」の中でも生産性向上は大きなテーマであり,特にホワイトカラーの生産性向上は日本企業の喫緊の課題である。
ホワイトカラーの業務は大きく「定型業務」と「非定型業務」に分類できる。定型業務はデータ入力や伝票・請求書の作成といった,作業の内容に一定のパターンがあるもので,RPA(Robotic Process Automation)などのツールにより自動化することができる。一方,非定型業務については,AI(Artificial Intelligence)の活用が有効である。AIにはさまざまな種類があり,活用領域も多様であるが,そのうちの一つが「チャットボット」である。
AIアシスタントサービスは,チャットボットの仕組みを使い,ホワイトカラーの人々の時間を圧迫している非定型業務を効率化するためのサービスである。
非定型業務とは,企画の策定や交渉,調整といった経験や判断を伴う作業であり,そのための情報収集やブレインストーミングなどの準備作業が必要な場合も多い。
非定型業務の効率化の課題としては,「情報検索や情報収集に時間がかかる」,「関係者のスケジュール調整などの雑務が多い」,「出張先からオフィスに戻る時間がもったいない」などが挙げられる(図1参照)。
これらの課題を,「スマートフォンやタブレットで」,「外出先から」,「簡単なインタフェースで」処理できるようにすることで解決したいと考え,AIアシスタントサービスを提供している。
チャットボット(chatbot)とは,「対話(chat)」する「ロボット(bot)」という2つの言葉を組み合わせたものであり,チャットを介してさまざまな情報検索を行ったり,一定のタスクや処理を自動化するためのコミュニケーションサービスである。LINE※1),Facebook※2) Messenger※2),Slack※3),またはWebのインタフェースなどを通じて提供され,チャットで人と対話するようにボットに対して問い合わせを行うことで,回答や情報を得る。ユーザーからの問い合わせの理解にAIを活用し,高度な対話を実現することができる。現在,日本での適用事例としては,銀行のオンライン問い合わせ,EC(Electronic Commerce)サイトでの顧客からの問い合わせ対応など,コールセンター業務の効率化の事例が多い。
図2|AIアシスタントサービスの特長スマートフォンやタブレットを活用し,Skype for BusinessのチャットでAI(Artificial Intelligence)アシスタントと対話することで,AIアシスタントサービスがユーザーに代わって社内システムにアクセスし,情報検索や業務の実行をすることができる。
株式会社日立ソリューションズのAIアシスタントサービスは,Microsoft※4) Office 365※4)のSkype※4) for Businessをインタフェースとして使用することを前提とし,国内メーカーのAIエンジンを搭載したチャットボットのサービスである。このAIアシスタントサービスは,「自然言語を理解して,検索・回答できる」,「既存システムと幅広く連携する」,「ユーザー特性を機械学習する」という3つの特長を有する(図2参照)。
図3|AIアシスタントサービスの仕組みAIエンジンがユーザーの意図を判別して対話を制御し,必要なアクションを実行する。その結果を基に,応答する内容を生成し,ユーザーに通知する。
日立ソリューションズでは,2017年4月より営業部門約100名でAIアシスタントサービスのPoC(Proof of Concept)を行った。社内にある企業情報,社員の連絡先,商品情報,業務ナビ(人事総務関連の規則など)を対象とした。最も多く利用されたのは社員連絡先検索(889件)であり,2位は企業情報検索(234件),3位は業務ナビ(126件),その後,商品担当者検索(103件),商品資料検索(81件)という結果となった。利用シーンとしては,移動中や外出先での情報検索が多く,活用の結果,通常の調べ方では5〜30分掛かるのに対し,1分程度で目的の情報を得られたことが分かった(図4参照)。
しかしながら,対話をうまく理解できず「分かりません」という回答をしたり,社員の連絡先を聞いているのに人の名前と認識できず企業情報を回答したりという間違いも発生した。AIを活用する場合,どうしても最初の段階では正しい答えにたどり着くことが難しい。
PoCの実施後,対話を理解し,正解を導く精度を上げるため,開発部門にて検証を重ね,データの成形や辞書のメンテナンスを実施した。同じことを聞きたい場合でも人によって質問の表現が異なるため,実際にどういう言葉で質問するかを洗い出し,そのバリエーションを学習させた。
2018年2月からは,約1,700名の社員を対象に利用を進めている。
AIアシスタントサービスに対して,顧客からは社内の問い合わせを自動化したい,というリクエストがよく寄せられる。これを実現するには,FAQなどの社内データを事前に準備する必要があるが,「どんなふうにまとめればいいのか分からない」,「データがあちこちに散在している」,「導入後の辞書データベースのメンテナンスが面倒なのでは」といった懸念が挙げられている。
これに対し,FAQをテンプレート化し指定フォーマットに集約する機能や,辞書生成ツール,社内Webサイトクローリングツールで業務とURL(Uniform Resource Locator)を簡単にひも付けできる機能を開発中である(図5参照)。
引き続き社内での活用を継続し,システムの拡張や,使い方の知見・ノウハウの集約によってビジネスにフィードバックしていく。
AIの活用には少なからず,学習による精度の向上が必要である。利用を継続してデータを蓄積することで,学習が進み精度が上がっていく。PoCの最中や導入直後には間違いが発生しがちであるが,AIを教育し成長させていくことで,利用価値が高まると考えられる。
さらに,AIアシスタントサービスは,利用を重ねることでユーザーの傾向を理解し,パーソナライズする機能を持っている。例えば,会議室の予約をする場合に,複数の空き会議室の情報を回答する。それに対し,ユーザーがA会議室を選択するといったやりとりが複数回行われた場合,空き会議室を回答するときには,「よく使う会議室」としてA会議室が一番上に表示される。ユーザーは,自席に近い会議室や自分にとって使いやすい会議室を選択しやすい形で回答してもらえることになる。つまり,気の利くアシスタントが,ユーザーの行動パターンからより的確な選択肢を提案してくれるようなものなのである。
このような形で,より多く利用することにより,AIアシスタントサービスは,ユーザーに寄り添う気の利くアシスタントに成長することが期待できる。
企業は今,従業員のライフスタイルを大事にしながら働き続けられる環境を整備し,個人の幸せと企業の成長を両立することを求められている。
日立ソリューションズは今後も, AIなどの新しい技術を活用した有効なソリューションを提供し,働き方改革の重要課題である生産性向上に寄与していく。