新たなワークスタイルを実現する日立のソリューション
近年,オフィスの中にIoTセンサーを設置し,施設の使われ方や従業員のオフィス内での活動の様子を分析することで,施設の管理運用コストの削減や従業員の生産性向上をめざす試みが注目されている。
本稿では,施設に特化したIoTセンサーを,株式会社日立ソリューションズ本社ビルならびに日立グループのイノベーションルーム「@Terrace」に設置し行ってきた取り組みと,将来のCRE(企業不動産)最適化に向けた活用の構想を紹介する。
従来,多くのオフィスワーカーは,決められた時間にオフィスに出社し,決められた席で作業を行い,決められた場所で会議を行うのが一般的であった。しかし,柔軟な働き方が広がるにつれ,働く時間や場所を個人の裁量で選べるようになり,従業員のオフィスでの過ごし方も多様化してきている。
オフィスでの過ごし方が多様化するにつれて,新たな課題が発生している。課題は2つに大別される。
一つはオフィス空間に関する課題である。多様な働き方に対応するためには,従来,従業員一人ひとりに割り当てられていた固定座席をフリーアドレスに変更したり,気軽に打ち合わせが行えるように打ち合わせコーナーを設けたりするなど,固定的に利用されていたオフィス空間を動的に利用できる空間に変更する取り組みが必要となる。しかし,空間を動的に利用するためには,固定的に利用するよりも管理や運用が複雑になるという課題が発生している。
もう一つは従業員の管理やサポートに関する課題である。柔軟な働き方をする従業員の勤怠管理やコミュニケーションの活性化サポートなど,従来にはない課題が発生している。
これらの課題を解決する手段の一つとして,施設の使われ方や従業員のオフィス内での活動の様子をIoT(Internet of Things)センサーで収集・把握し,さまざまなソリューションに活用する取り組みが注目されている。
今回,オフィス施設の使用状況や従業員のオフィス内での活動の様子を把握する手段として,世界11か国,200社を超える施設や建物に採用実績を持つ,米国Enlighted社のIoTセンサーソリューションを使用した。
このIoTセンサーソリューションは,情報を取得するIoTセンサーと,その情報を可視化するクラウドサービスから構成される(図1参照)。
このIoTセンサーの特長として,単一のセンサーで人の有無(赤外線),温度,照度をセンシングすることが可能であることと,無線通信技術Bluetooth※)の一部であり,低消費電力の通信モードであるBLE(Bluetooth Low Energy)の送受信機能を有していることが挙げられる。BLEビーコンを併用することで,ヒトやモノを個体識別したうえで,その移動状況をリアルタイムに取得できる。センサーを天井に約3 m間隔でメッシュ状に設置した場合,誤差1〜2 mの位置精度を実現できる。
IoTセンサーおよびBLEビーコンで取得した情報は,クラウドサービスによってさまざまな形式で可視化される。例えば,人感(赤外線)センサーの反応回数を時間軸で蓄積することにより,人の滞留時間を示すヒートマップの生成や,動線・施設稼働状況の可視化ができる。BLEビーコンを用いた移動状況の可視化では,リアルタイムの位置表示だけでなく,特定エリアへの侵入をアラート表示したり,過去の移動状況を確認したりできる。
さらにこれらの情報は複数施設を横断して一括管理することが可能であり,施設管理者がこれまでにない広域的な分析をできる点が強みとなっている。
図1|Enlighted社のIoTセンサーソリューションの概要天井に設置したIoTセンサーシステムが,施設の環境情報や利用者の行動情報をクラウド上へ送信する。クラウドアプリケーションにて,さまざまな視点で分析した施設の利用状況を閲覧できる。
図2|@Terraceの内観@Terraceにはさまざまな「働くシーン」に対応するスペースがあり,新しいワークスタイルを実践・体感できる。
図3|@Terraceエリア別稼働率・利用率各スペースの稼働率・利用率を表示する画面からエリアごとの利用状況をひも解き,運営者の想定どおりに空間が利用されているかを確認できる。
図4|@Terraceの時間別利用率エリア利用率の詳細を示す。色の濃淡を見ることで,よく利用される時間の傾向などを分析できる。
図5|混雑度表示の課題混雑度を表示する際,人の移動に伴い多くのセンサーが反応することで,混雑度が実態よりも高く見えてしまう課題があった。
図6|食堂における検証メンバーの様子食堂の俯瞰図にリアルタイムにプロットされる検証メンバーの位置情報から,同伴者や昼食メニューを推定することができる。
株式会社日立ソリューションズ本社ビルおよび,日立グループのCRE(Corporate Real Estate:企業不動産)戦略推進を行う株式会社日立アーバンインベストメントが運営する日立グループのイノベーションルーム「@Terrace」にEnlighted社のセンサーを設置し,各種分析と検証を行った。
今回の検証で,IoTセンサーによって施設の利用状況が把握でき,かつ,従業員の勤怠管理や行動分析が可能であることが確認された。
日立ソリューションズでは,日立アーバンインベストメントが提供している,働き方改革(Work)とオフィス改革(Work Place)を組み合わせたコンサルティングサービス「W Innovation」(図7参照)と連携して新たなソリューションを開発予定である。このソリューションでは,IoTセンサーで得られたオフィスや従業員の情報を,会議室予約や空調管理などの施設管理・運用の仕組み,勤怠管理,プロジェクト管理などの従業員向けのソリューションと組み合わせることで,より快適な働く環境の創出とオフィス配置,管理・運用コストなどのCRE最適化の両立をめざしていきたいと考えている。