グローバル×デジタルを加速する技術革新
近年,さまざまなデータを活用し,AIなどの最新技術を用いて業務を効率化し,また,新たな価値を提供するIoTソリューションの導入が進んでいる。IoTソリューションでは,既存のシステムを最先端技術とつなぐことが不可欠であり,時間とともに進化し続けるため,開発にはさまざまな課題が存在する。
そうした課題に対し日立は,IoTソリューションの開発を容易にするLumadaプラットフォームサービスを提供している。本稿では,IoTソリューション開発における課題と,それらを解決するLumadaプラットフォームサービスの主要構成要素であるLumada Solution HubおよびIoT-Compasについて,活用されている最新技術と共に概説する。
デジタル技術の飛躍的な発展により,あらゆるものがインターネットにつながることによって新たな価値を創出するIoT(Internet of Things)時代を迎えている。そして,デジタル技術の進展は,さまざまな革新をもたらし,加速するビジネス環境の変化スピードに追従し,マーケットでの競争力や優位性を高めることが企業に求められている。そのため,さまざまなデバイスやシステムからのデータを最新AI(Artificial Intelligence)技術で分析し,業務を可視化・フィードバックすることで,業務改革を進める企業が増加している。その対象も,個々の部門から企業をまたぐバリューチェーン全体に広がりつつある。
本稿では,企業の業務デジタル化を支援するLumadaプラットフォームサービスの概要を技術的側面から紹介する。
IoTソリューションは,既存のERP(Enterprise Resource Planning)システムやMES(Manufacturing Execution System)システムからデータを収集し,AI/DL(Deep Learning)などの最先端技術を活用して,データから新たな価値を見いだし,業務を改善させる(図1参照)。このようなIoTソリューションは,業務改革を進めていく中で,改善項目が変化し,それに合わせて迅速にシステムを進化させていく必要がある。
これは,複数のシステムが連携することで,より大規模なシステムとなり,かつ新しい価値を生み出す「System-of-Systems」1)の考え方が当てはまる。このようなシステムの開発では,つながる対象が拡大し,予定外の変化が起こるため,以下のような技術課題が発生する。
図1|System-of-SystemsとしてのIoTソリューションとLumadaプラットフォームサービスの提供機能IoTソリューションは,既存システムと最先端技術を組み合わせたシステムで,「System-of-Systems」としての特性を満たす。
IoTソリューション開発における課題解決を,プラットフォームの機能として提供するのが,Lumadaプラットフォームサービスである。それぞれの課題に対応した提供機能を表1に示す。
これらの機能のうち,(課題3)を具現化する製品「Lumada Solution Hub」を3章で,(課題1)(b)を具現化する技術である「IoT-Compas」を4章で概説する。
2章で述べたLumadaプラットフォームサービスの提供機能のうち,(課題3)を解決する商材がLumada Solution Hubである。Lumada Solution Hubは,他のプラットフォームとの相互接続性を重視し,業界標準となっている各種OSS(Open Source Software)を活用して構築している。Lumada Solution Hubの主な特徴は以下のとおりである。
前節で述べたLumada Solution Hubの特徴を実現するアーキテクチャを図2に示す。
Lumada Solution Hubは大きく3階層で構成しており,ここでは各階層で採用している技術やOSSについて概説する。
図2|Lumada Solution HubアーキテクチャLumada Solution Hubは,IaaSと管理基盤から成るクラウド基盤と,パッケージ化したソリューションから成る。ソリューションは,アプリケーション開発環境を構築するものと各業種向けの業務ソリューションから成る。
物流業,建設業や製造業など各産業では,機能別に分割された業務を決められた手順で遂行し,次の業務への業務結果の引き継ぎを繰り返すことで,物流業では物が運ばれ,建設業では建物が作られ,製造業では製品を製造するという事業を形作っている。これらを遂行するための各業務は,デジタル化により効率化が進んでいるが,市場ニーズの多様化により,さらなる効率化が求められている。
この効率化には,個々の業務効率化のみに着目するのではなく,事業を構成する多様な業務のつながりを意識し,バリューチェーン全体の業務フローを最適化することが重要になる。
しかし,業務フロー全体を最適化するには,各業務システムから発生する膨大かつ体系の異なるデータを集約し,統合的に管理できる仕組みが必要になる。
製造業では,プレス加工,塗装や組み立てなどの生産業務が生産ラインとしてつながっているが,一方で個々の生産業務システムはそれぞれの生産業務に最適化され異なるシステムとして構築されていることが多い。
そこで日立は,製造業における上記と同様の課題に着目し,工場の各業務に点在する多種多様な現場データを集約して生産ライン全体をデジタル空間上に再現し,現実世界を模したシミュレーション空間で,工場や製品などに関わる物理世界の出来事を可視化・分析することを支援するIoT-Compasを開発した。IoT-Compasは,工場を持つ製造業のみならず,生産ラインのような定型化された業務フローを持つ他の産業にも適用することができる。
IoT-Compasは,さまざまな業務で個別に蓄積されているOT(Operational Technology)/ITデータの集約およびデータの整備を容易にし,AI分析やシミュレーションによる継続的な生産性改善を支援するデータ活用基盤である(図3参照)。この基盤では,生産業務上での「つながり」を利用して現場データをモデル化している。具体的には各生産業務と,生産業務に携わる人,装置,材料および業務の実行手順書などを4M(Man,Machine,Material,Method)として定義し,さらに,生産業務で製造された加工品(Material)で前後の生産業務間のつながりを再現した独自のデータモデルを採用している。
モデル化された現場データはグラフDB(Database)に登録され,最終製品ごとに各生産業務の現場データを引き出すことができる。これにより,個々の最終製品がどの生産業務で,どの装置を使って,何が行われたかなどを関連付けて見える化することが可能になる。IoT-Compasによって,生産業務の専門知識を有さずとも必要なときに必要なデータを容易に抽出・統合できるようになり,データ分析のPDCA(Plan,Do,Check,Act)サイクル短縮化に寄与する。
図3|IoT-Compasの概要IoT-Compasは業務と業務に携わる人,設備,材料,方法・手順と業務間の関係性を利用して現場データをモデル化し,グラフDBに保持する。
本稿では,IoTソリューションの開発を容易にするLumadaプラットフォームサービスの概要と,それを具現化する製品・技術であるLumada Solution HubおよびIoT-Compasの開発背景とその技術を概説した。
今後も,データを活用して業務・システムをデジタル化して効率化する取り組みは広がっていき,それらを支援するプラットフォームの重要性が大きくなる。
日立は,デジタル化された業務をシミュレーションする技術や,複雑化するソフトウェアをセキュアかつ容易に運用する技術などを開発し,Lumadaプラットフォームサービスに適用していく予定である。