ひとりひとりに寄り添った生活課題の解決
日立グローバルライフソリューションズ株式会社は,お客さまに真に寄り添い,新たな価値を提供する企業をめざす「360°ハピネス」を事業スローガンとしている。これに基づき,国内では(1)デジタル技術を活用したコネクテッド家電の開発,(2)お客さまの声に応えるオンリーワン機能の創出,(3)毎日の暮らしを彩るデザイン価値の創造に取り組み,お客さまのQoL向上をめざした商品を展開している。また,海外ではタイに設立した「グローバル商品開発センタ」との連携により,グローバル視点での商品開発を行っている。本稿では,これまでの取り組みについて紹介する。
日立グローバルライフソリューションズ株式会社は,これからの日立の家電がめざす方向性として「ひとりひとりに寄り添い,暮らしをデザインする」ということを新たなコンセプトとしている(図1参照)。
国内の社会背景を見ると,社会構造が大きく変化していることに伴い,ライフスタイルも変化している。かつて主流だった専業主婦世帯数は減少し,共働き世帯数が増加して家事は夫婦で分担するという家庭が増えてきている。また,65歳以上の高齢者人口が増加しており,体力の低下が気になるものの,健康でアクティブなシニアが多くなってきている。さらに,少人数世帯数も増加しており,質にこだわり,充実した生活を求めるようになってきている。このように人々のライフスタイルも多様化し続けている今,家電に求められるものも急速に変わりつつある(図2参照)。
このようなライフスタイルの多様化に対し,ひとりひとりに寄り添う商品とは何か。その答えはお客さまの声(VoC:Voice of Customer)にある。お客さまの生活実態調査や製品の使い勝手の検証,ニーズ調査などを行う生活ソフト開発センタの活用,VoCセンタを新設し製品使用者の不満や改善点の抽出,大学や外部機関との共同研究などを行い,ひとつひとつの声に耳を傾け,商品・サービスに反映している。
これらの活動を通じた商品開発として,(1)デジタル技術を活用し,使用している家電がソフトウェアのアップデートによって,より便利に進化していくコネクテッド家電の開発,(2)お客さまの声に応えるオンリーワン機能の創出,(3)毎日の暮らしを彩るデザイン価値の創造に取り組み,お客さまのQoL(Quality of Life)向上をめざしている。
現在開発を進めているコネクテッド家電は,各製品に専用スマホアプリを開発し,スマートフォンによって機器の操作,運転状況の確認,サポート機能などを使えるようにして,お客さまの使い勝手向上を進めている。また発売後はソフトウェアのアップデートにより,機能の追加やスマートスピーカーへの対応など,さらに使い勝手を向上させている。これまでの白物家電は,お客さまが購入した時点でその製品にできることは限られていたが,コネクテッド家電は,インターネットに接続し,ソフトウェアをアップデートすることで,より便利に進化することをめざしている。このようにお客さまの生活に合わせて家電を進化させる「ソフトウェア・デファインドコンセプト」に基づいたコネクテッド家電を開発している。さらにコネクテッド家電をタッチポイントとして,社外パートナーと連携し,新しいサービスを提供できるよう進めている(図3参照)。
2018年2月にIHクッキングヒーターHT-L350KTWFとロボットクリーナーRV-EX20を発売した。IHクッキングヒーターでは,お客さまが普段悩みがちな献立をスマートフォンで簡単に検索でき,調理したいレシピを本体へ送信することで,火力・時間などを自動で設定する。また,ロボットクリーナーでは,スマートフォンを使って自宅の外からでも運転操作ができるほか,運転のスケジュール予約や履歴の確認などができる。さらに発売後,ソフトウェアのアップデートによって,新しい運転モードを追加したり,スマートスピーカーとの連携で声でも操作ができ,より便利に使用できるようになった(図4参照)。現在は洗濯機・冷蔵庫・電子レンジと順次コネクテッド家電を拡大している。
ライフスタイルの多様化に伴って,家電製品に求められる機能も多様化している。そうした中,お客さまの声に応えるにはオンリーワン機能の提案が求められている。本章では冷蔵庫・コードレススティッククリーナー・洗濯機・エアコンにおけるオンリーワン機能について紹介する。
冷蔵庫を使用しているお客さまに収納量とレイアウトに関する調査を行った結果,小学生や中学生がいる世帯では冷凍室の収納量が多く,シニア世帯は野菜を多く収納していることが分かった(図5参照)。このように年代や家族構成によって冷凍室,野菜室の収納量に差があり,家族の成長とともに収納したい食材も変化するため,冷凍室・野菜室の収納量を変えられる商品の提案が必要だった。
2019年2月に,暮らしに合わせて冷蔵庫下部の二つの引き出しをそれぞれ冷凍・冷蔵・野菜の収納に選べる「ぴったりセレクト」を発売した。共働きで忙しく冷凍食品を多く使う世帯では両方を冷凍に,野菜を頻繁に使う世帯では取り出しやすい上段を野菜に,といった形で,暮らしに合わせてレイアウトを自由に選べる(図6参照)。
共働き世帯の増加などの社会背景から,使いたいときにすぐ使えるコードレススティッククリーナーの需要が拡大している。お客さまの購入重視点では,吸引力の強さに続き,本体重量が重視されている(図7参照)。吸引力を求めると,ファンモーターの大型化,バッテリーの大容量化によって本体重量は犠牲になる。最上位機種では,吸引力の強いモデルを発売しているが,本製品は軽さに特化したモデルとして,日立コードレススティッククリーナー史上最軽量の標準質量※1)1.4 kgを実現した(図8参照)。また,「小型・軽量ハイパワーファンモーターTR」を開発し,小型・軽量と強力な吸引力を両立した。これにより,強力パワーでスティック時でもハンディ時でも軽快に掃除ができる。
共働き世帯の増加などを受けて,洗濯についても時短・省手間が求められている。
本製品は,複数のセンサーで洗剤の種類や布質・汚れの量・水の硬度・布動きなどの情報を収集し,自動で各工程に適した洗濯制御で運転する「AIお洗濯」を搭載している。例えば,汚れが多い場合は洗浄力重視で時間を延長して洗ったり,よくすすげている場合は節約重視で使用水量を減らして洗濯する。これにより,効率よくきれいに洗濯するとともに,洗濯のたびに運転の設定をする手間が省ける。また,タテ型洗濯乾燥機で業界初※2)となる「液体洗剤・柔軟剤自動投入」機能を搭載し,洗濯のたびに液体洗剤・柔軟剤の適量を自動で投入する(図9,図10参照)。
家庭で使用するエアコンについて,調査によると,「フィルター掃除が面倒」,「エアコン内部の汚れが気になる」,「エアコン内部の掃除ができない」という不満が多い(図11参照)。通常エアコンは室内の高い位置に設置されており,カバーや部品の取り外しも伴うため,フィルターの奥にある熱交換器やファンの手入れをお客さま自身で行うことは困難だった。
内部にホコリなどが付着して汚れると,ニオイの発生の要因,冷暖房能力の低下,電気代のムダにつながる。
これまで,製品開発においてエアコン内部の清潔性に取り組み,2006年にフィルター自動掃除とエアコン内部の通風路,フラップ,フィルターにステンレスを採用した「ステンレス・クリーン システム」を開発した。
2017年には,お客さま自身で手入れすることが困難なエアコン内部の熱交換器を凍らせ,たくわえた霜を一気に溶かし,汚れを洗い流す熱交換器自動お掃除「凍結洗浄」を製品に搭載した。「凍結洗浄」はエアコン内部を清潔な状態にするとともに,ホコリの目詰まりによる性能の低下も抑えることができる。
これら,「ステンレス・クリーン システム」,「凍結洗浄」により内部の清潔性の向上に取り組んできたが,ファンは未着手だった。
2018年には,熱交換器の奥にあり,掃除ができなかったファンに着目し「凍結洗浄」を進化させた「凍結洗浄 ファンロボ」を開発した。「凍結洗浄 ファンロボ」は,エアコン内部の熱交換器とファンを定期的に自動掃除することで,手入れの手間を省き,清潔な風を届ける。また,汚れによる能力低下を抑え,電気代のムダを省くことができる(図12参照)。
高いデザイン性と,社会潮流の変化に合致した新たなデザイン品質の獲得をめざし,日立製作所研究開発グループの東京社会イノベーション協創センタと共に「Hitachi meets design PROJECT」を発足させ,デザイン改革を本格的に始動した。本プロジェクトのデザインフィロソフィである「Less but Seductive(一見控えめなれど,人を魅了するモノのありよう)」は,普段は気に留めることもないけれど,日常の時々でお客さまが製品と接するときに,あってよかったと思える実用性と,愛着を持って長く使ってもらえるデザインをめざしている。そのような考え方に基づいて,社内のデザイン改革と同時に,外部デザイナーとのプロジェクトも行ってきた。その第一弾商品としてプロダクトデザイナーの深澤直人氏デザインの空気清浄機を発売した。
機器の正面をすべて水平のルーバーで覆い,一つのテクスチャのように仕上げることで,汚れた空気を強力に吸い込むことを示唆するとともに,部屋との整合性を高めたデザインに仕上げた。また,特徴的な背面形状で部屋のコーナーにぴったり収まり,隅から部屋全体に空気を循環させる。さらにプレフィルターが簡単に外しやすい前面パネルを採用している(図13参照)。
東南アジアでの生活水準が上昇し高付加価値の家電需要が高まる中,開発段階から現地のニーズをくみ取り,いち早く製品開発・販売戦略に反映させることを目的に,2017年4月,Hitachi Consumer Products(Thailand)内に「グローバル商品開発センタ」を設立した。
本センタは,開発の原点である「何を作るか」を考えるため,顧客視点や市場視点でのマーケティング機能を特長とし,開発に関する調査・検証をすることで選ばれるモノづくりをめざしている(図14参照)。また,各国の市場変化を分析し新市場,新販路での開拓販売の精度向上を図っている。
本章では「グローバル商品開発センタ」の活動事例として,2018年9月に発売した,タイを中心とする東南アジア向けの縦型洗濯機 新640シリーズ(Dual Jet Series)の開発プロセス,販売戦略を紹介する。
「グローバル商品開発センタ」では,製品開発のプロセスに同期した一連の検証プロセスを実施するという開発推進の重要な役割を担っている(図15参照)。
現状分析の結果を踏まえ,下記デザイン目標をベースに東京社会イノベーション協創センタを中心にデザインを推進した。
操作部をガラスふたに配置することで,前が低く,投入口の広い,衣類が出し入れしやすい構造とした。ガラスふたと本体の隙間を利用したハンドルや操作部のタッチスイッチの採用により,ふたや投入口まわりの凹凸が少なく清掃しやすい造形を実現した。また,ハンドルは開けやすさを考慮して全幅とし,外観上のアクセントとした。
さらに,現地特有のニーズを反映し,水量や水流を確認,調整できる「シャワープラス」,「ウォーターパワー」機能に加えて新たに,黄ばみ除去や除菌に対応した「温水洗い」,汚れ具合の異なる衣類が一度に洗える「分け洗いコース」を搭載した。
なお,本製品は現地のニーズをきめ細やかに製品に取り入れた配慮が評価され,2018年度グッドデザイン賞に選定されるとともに,デザイン振興のための国際的な組織であるインダストリー・フォーラム・デザイン・ハノーファーが主催する「iFデザイン賞2019」にも選定されるなど外部からも高い評価を得ている(図18参照)。
図18|最終の外観デザインデザイナー自らも調査に参画し,その場で見て感じた課題を解決する開発プロセスが外部評価につながった。
日立グローバルライフソリューションズは,これまで高い基本性能と独自性のある付加価値をお客さまに提供し,高い評価を得てきた。ライフスタイルの多様化によって,家電品に求められるものもさまざまである。今後も国内外を問わず,お客さまの声に耳を傾け,真に寄り添える価値を提供できるよう商品開発を進めていく。