工場のスマート化を実現するサービス・システム・プロダクト
社会生活において電気は必要不可欠な存在であり,ひとたび停電が発生すると経済活動はもとより日々の生活にまで甚大な影響を及ぼすおそれがある。工場,ビル,鉄道などの需要家が電気を安定的かつ効率的に使用するためには,電気の使用状況や電気設備機器の状態を常に監視することが重要であり,各部の電圧・電流やその他の情報を可視化し,短期・長期の経時的な変動を把握することが求められる。
これに対し,日立は省エネルギー化に貢献する受変電・配電・ユーティリティ監視システム「ES-MACS Athena(特高・高圧設備向け)」および「H-NET(低圧設備向け)」を提供している。また,これらのシステムに搭載されている「絶縁劣化監視システム」では,設備を稼働したまま高圧部から低圧部まで一貫した情報収集・監視が可能であり,機器の老朽化や劣化に伴う事故を予防するとともに安定的な利用に貢献する。
本稿では,電気の安定供給に関わる日立のこれらのシステム,サービスについて紹介する。
重要インフラである電気の安定供給を維持・継続するためには,電気設備の運転状態を常時監視することが重要である。日立では,省エネルギー化に貢献する受変電・配電・ユーティリティ監視システムとして,高圧(主に6.6 kV以上)向けの「ES-MACS Athena」および低圧(主に400 V以下)向けの「H-NET」を提供している。本稿では,これらの機器の特長と,予防保全の観点から主回路ケーブルに発生する間欠性地絡を検出可能な「絶縁劣化監視システム」を一例として紹介する。
電気設備を安全に効率よく運用するためには,各部の電圧・電流・電力・力率といった計測値を収集し,常に設備状態の変化を監視しその変化に自動/手動で制御することが求められる。代表的な制御の例と特長は,以下のとおりである。
監視システムは,各種項目の計測・監視から制御までを担う電気設備運用の要であり,長期的な監視から設備更新の計画までサポートすることが求められている。日立の監視システムの例として,受変電・高圧設備向け監視システムES-MACS Athenaの外観と監視画面を図1に,主な機能を表1に示す。
省エネルギー化の実現には,監視装置に各機器の電気使用量を蓄積し,電気の使用実態を把握することが重要である。需要家の電気設備は非常に複雑で,高圧部から低圧部に向けて樹形図のように広がっていることから,すべての計測点の情報を収集するためには,監視機器は多様な信号インタフェースに対応し,多くの信号を取り込み可能でなければならない。
日立の低圧設備向け配電・ユーティリティ監視システム「H-NET」は,最大121台のユニットを接続することが可能であり,ユニット間の通信線の距離を最大4.8 kmまで伸ばすことができる。このため,省エネルギー化に向けた電気量データの収集に適している。また,以下の信号インタフェースに対応している。
また各種表示画面(計測値,デマンド監視,トレンドグラフ,帳票,スケルトン,警報情報)を備えており,需要家側でのカスタマイズにも対応している。これらの機能を活用することで,H-NETは収集したデータを基に設備の省エネルギー性を見いだし,効果の高い設備投資の検討・提案が可能である。
図2にH-NETの各ユニットの概要とシステム構成,図3および図4に各種ソフトウェア画面と設定画面の例をそれぞれ示す。
電気設備における事故では,絶縁劣化から地絡に至るケースが多い。しかし,設備の絶縁状態は運転中に確認することが難しく,一般的には定期的に設備を停電させ,絶縁状態を確認することで安全性の確認を行っている。一方,最近の製造工場やサービス業などでは電気を停止することが難しく,稼働率と安全性の両立が難しくなりつつある。そのため,不要な停電を減らして設備稼働率を向上し,点検費用を削減するには,機器の絶縁状態を運転中に確認し,設備の劣化傾向を確認したうえで停電を伴う点検を最小限にすることが求められる。これに対し,日立は主回路ケーブルでの絶縁劣化を運転中に監視可能な「絶縁劣化監視システム」を提供している。
主回路ケーブルで絶縁劣化が発生した場合,間欠アーク地絡を繰り返す傾向がある。絶縁はゼロコンマ数秒程度継続したのち回復し,消滅するため,地絡電流は連続的に流れず間欠性となる。またこの現象は散発的で,一度発生すると長時間経過してから再度間欠アーク地絡を繰り返し,復旧から発生までの時間が徐々に短縮していき,最後には完全絶縁破壊(地絡)に至ることが多い。本システムは,地絡事故の予兆とも言える,こうした間欠アーク地絡現象を検出し,発生状況を可視化することで,より早い段階で絶縁劣化箇所を特定し,対策することが可能であり,短期間で効率よく事故の発生を防ぐことができる。また検出に必要な絶縁劣化検出機能は後述の設備保護用保護継電器ICU-Tに内蔵されており,機材を追加することなく,どの回線のどの相で間欠アーク現象が発生しているかを判別可能である。図5に間欠アーク地絡の波形の例を,図6に絶縁劣化のメカニズムを示す。
電気設備に使用する機器からの入力情報により,その機器および系統に発生した事故が拡大しないよう,異常を早期に検出して開閉器に制御指令を出す機器が保護継電器である。日立の保護継電器ICU-Tシリーズは,ディジタル式で計測・保護・制御・通信といった複合機能を有するため,高性能なCPU(Central Processing Unit)を使用しており,省スペース性,高信頼性,保護特性の自由度向上,デジタルデータの活用など,さまざまな特長を有する。またワイドレンジCT(Current Transformer)に対応し,負荷容量を変更する場合でもCTを変更することなく対応が可能となっている。
さらに,主回路ケーブルを対象とした絶縁劣化検出機能を内蔵したICU-Tは「絶縁劣化監視システム」の検出部となっており,通常の地絡・微地絡だけではなく,間欠アーク地絡を追加機器を必要とすることなく検出し,結果を上位システムに伝送する。絶縁劣化監視機能付きICU-Tには母線一括監視タイプとフィーダ回線監視タイプの2種類があり,母線一括監視タイプでは,1台のICU-Tで変圧器二次側全体の絶縁劣化監視ができ,電気設備全体の兆候把握に有効である。一方フィーダ回線監視タイプでは,相・回線判別まで可能となり,実際にケーブルを更新する際,停電前に対象ケーブルを容易に特定することができる。日立は,これらの2種類のICU-Tを使い分けることで顧客ニーズに対応している。図7に絶縁劣化監視機能付きICU-Tの外観と構成例を示す。
配電用変圧器は,工場やビルなどの幅広い分野で使用されており,経済産業省より特定機器※1)に指定されたことに伴い,省エネルギー化への対応が求められている。日立のアモルファス変圧器は,トップランナー基準※2)のエネルギー消費効率※3)を上回る省エネルギー性を実現している。
主な特長は,以下のとおりである。
表2|SuperアモルファスZero Sシリーズの仕様アモルファス変圧器ZeroSシリーズのラインアップ一覧を示す。単相10 kVAから三相2,000 kVAまで,JISに規定されたすべての定格容量をラインアップしている。
本稿では,省エネルギー化に貢献し,絶縁劣化監視を高圧から低圧まで一貫して行うことで効果的に電気設備における事故防止を図る日立の電気設備機器について紹介した。今後も電気の安定供給に貢献するべく,収集情報の高度化を図るとともに,クラウドを活用したデータベースでさらに精度の高い予防保全へと取り組んでいく。