次世代のエネルギーを実現するイノベーション[ⅱ]分散電源ソリューション発電事業者向け経営課題解決型ソリューションの提供
ハイライト
火力発電設備を保有する発電事業者の経営課題は,発電事業の事業構造の変化に伴う事業者間の競争激化により,ますます多様化し,また膨らみつつある。
これに対し,日立は経営課題を見える化し,具体的な解決策を実行するためのさまざまな経営課題解決型ソリューションを提案している。具体的には,発電事業者のO&Mを支援し,経営効率を改善する「ガスタービン向け部品管理システム」,「ボイラチューブリークの早期検知(予兆診断)」,「多種燃料最適化」などに取り組むとともに,これらの各ソリューションをプラットフォームに統合して提供することで,さらなる高付加価値の実現をめざしている。
1. はじめに
発電分野を取り巻く事業構造の変化に伴い,発電事業者が抱える課題が多様化する中,日立はこれまで培ってきた発電分野のOT(Operational Technology)とITを組み合わせることで,発電事業者のO&M(Operation and Maintenance)を支援する,より高付加価値な顧客課題解決型のIoT(Internet of Things)ソリューションを提供している。
本稿ではその例として,「ガスタービン向け部品管理システム」,「ボイラチューブリークの早期検知(予兆診断)」,「多種燃料最適化」について紹介するほか,これらのソリューションをプラットフォームに統合し,提供していくことにより,予兆診断結果と設備のひも付けやナレッジの蓄積を可能とし,メンテナンス時間の短縮,計画外停止の低減など,より高度なサービスを実現する発電事業者向けプラットフォームについて述べる。
2. ガスタービン向け部品管理システム
ガスタービンの中でも高温部品は性能に直結する重要な構成部品であり,その運用・保守においては,使用時間や点検記録を適切に管理し,ルールに則った交換やローテーションを確実に実施することが求められる。
これに対し,日立はこれまで培ってきた設計,製造,保守・サービスのノウハウを活用して,ガスタービンの定期点検部品に関する在庫データや高温部品の運転時間を管理する部品管理システムの構築に取り組んでいる。本システムは,IoTプラットフォーム(クラウド)上でデータの一元管理・共有を行い,点検・保守作業を効率化するとともに,ガスタービンの運用に関わるコストの削減を支援するものである(図1参照)。
本システムの主な機能は,以下のとおりである。
- 定期検査のサポート
ガスタービンの動静翼,燃焼器など,あらかじめ計画運転時間が定められた高温部品について,部品ごとに運転時間の管理を行うことができる。
また,交換部品や部品セットごとに運転時間管理テーブルを作成し,点検および交換の計画・実績を管理する。計画運転時間が交換周期に達した部品については,次回定期点検時に交換するようガイドし,ルールに則った交換やローテーションを確実に実施することが可能となる。 - 日常点検のサポート
顧客の点検様式を取り込んでデジタル化することにより,従来は紙ベースで行っていた日常点検業務をタブレット端末上で行い,結果を記録することを可能とした。また,タブレットで撮影した写真を点検フォーマットに差し込むことで,報告書の作成をサポートする。
さらに,日常点検のデータがデジタルデータとして蓄積されることで,設備の圧力,温度などの数値データを時系列で確認できるほか,データの相関による分析・グラフ化による評価が可能となった。
本部品管理システムに搭載されている在庫管理機能,運転時間管理機能,タブレット点検機能はガスタービン以外の設備にも対応可能であり,ガスタービンコンバインドサイクルにおける排熱回収ボイラなどの発電設備全般にも適用可能である。
3. ボイラチューブリークの早期検知を実現する予兆診断
図2|予兆診断システムの概要火力発電設備における信頼性の向上を目的として,AI(Artificial Intelligence)を活用した予兆診断技術を開発している。このシステムでは,発電所の運転状態を自動的に分類・解析することで,故障の前兆である状態変化や異常発生をリアルタイムに検知することが可能である。
日立は,発電設備における信頼性の向上を目的として,AI(Artificial Intelligence)を活用した予兆診断技術を開発している。
この予兆診断技術は,発電所の運転状態を自動的に分類・解析することで,故障の前兆である状態変化や異常発生をリアルタイムで検知可能とするものである。プラントデータは監視制御システムから予兆診断システムに取り込まれ,監視業務と障害分析業務を支援する。さらに,障害分析業務の結果から,モデル作成や追加学習といったデータ分析業務を行い,監視業務や障害分析業務にフィードバックする(図2参照)。
今回,国内の電力会社と予兆診断技術の共同検証により,エネルギー事業で培ってきた日立の経験・分析技術と,電力会社の発電所の運用・保守に関わるノウハウを組み合わせて,予兆診断技術の検証を実施した。日立の予兆診断技術の一つであるART(Adaptive Resonance Theory:適応共鳴理論)を採用した予兆診断システムによりボイラチューブリーク診断を行った結果,運転員が制御装置の警報あるいは運転管理基準から異常を判断して,プラント停止操作を行う3日~1週間前に,ボイラの状態変化やリーク部位を検知できることが確認された(図3参照)。
ARTを用いた日立の予兆診断システムでは,ボイラチューブリークを早期に検知することによってプラント停止の前段階から対策・準備が可能なため,効率的な発電所の運用計画の見直しを行うことができる。また,ボイラチューブリークの位置を特定することで適切な運転監視が可能であり,復旧に関わる対応の検討を前倒しすることにより,プラントの停止期間の短縮が期待できる。
図3|予兆診断システムによる異常検知の例ボイラチューブリーク診断を行った結果,運転員が制御装置の警報あるいは運転管理基準から異常を判断して,プラント停止操作を行う3日から1週間前にボイラの状態変化やリーク部位の検知ができることを確認した。
4. 多種燃料最適化
日立は,異なる2種類以上の燃料を使用する発電所を対象として,燃料の最適運用を目的としたソリューションを開発している。
こうした発電所では,燃料の貯蔵量や発電コスト,発電出力,売電価格など,燃料の調達および消費計画を過去の経験に基づいて人手で作成していることが多く,業務が属人的であり,工数も掛かることが課題となっていた。
そこで,燃料の貯残量,供給先の需要を考慮し,燃料の使用割合,燃料単価,時間帯別に変動する売電価格などの条件の中から利益を最大にする最適解が得られれば,発電所の価値を向上させられると考えた。
本ソリューションを用いて,燃料供給や発電量の制約の下で売電収益の最大化や燃料消費量が最小となる燃料投入計画の最適解を求めることができる。図4にソリューションの概念を示す。
5. 発電事業者向けプラットフォームの提供
日立は,発電事業者向けの経営課題解決型ソリューションをLumada上で提供し,以下に述べる二つのステップを経て展開する計画である。
STEP 1
発電所の運転データや定期検査に関するデータを,日立のクラウドを介して取り込み,発電所の課題解決や業務効率の改善につながるアプリケーションの導入を進める。
STEP 2
蓄積された個別業務のデータを統合するプラットフォームを構築し,プラットフォーム上でアプリケーションを提供することにより,予兆診断結果と設備のひも付けやナレッジの蓄積が可能となり,メンテナンス時間の短縮,計画外停止の低減など,より高度なサービスを実現していく。
多くの顧客にこのプラットフォームを提供し,活用してもらうことによって,ナレッジを共有化し,高度化することができると考えている(図5参照)。
6. おわりに
事業者間の競争がますます激しくなることが予想される中,発電事業者は今後,設備の安定稼働に加え,さらなる発電コストの低減を求められる。また,ベテランエンジニアの退職に伴う若手エンジニアの育成も急務となる。
日立は本稿で紹介したソリューションをプラットフォーム上で提供するとともに,顧客のニーズに応じてデータを利活用し,各ソリューションの連携を可能とすることで,顧客の経営課題の解決に寄与し,協創を通じて発電事業をサポートしていく。