2020 Vol.102 No.2 脱炭素社会に向けた
エネルギーソリューションEnergy Solutions for Future Earth
地球環境問題の深刻化に伴い,段階的に二酸化炭素の排出量ゼロをめざす「脱炭素社会」の実現に向けたグローバルな取り組みが広がっている。
こうした中,日立は「エネルギーソリューション×Lumada」に代表されるOT×IT×プロダクトによるエネルギーソリューション事業を中核に据え,課題解決に向けた取り組みを進めている。
本号では,脱炭素社会に向き合う日立のエネルギー事業の今後の方向性と新たな取り組みを中心に,さまざまな社会課題を解決し,人々のQoLの向上と顧客の企業価値向上に資するエネルギーソリューション,そして原子力分野での活動を紹介する。
Cover Story
Society 5.0を支えるエネルギーシステムの実現へ
日立東大ラボの取り組み
記録的な気温上昇や相次ぐ自然災害など,気候変動の影響が世界中に広がりつつある。こうした中,エネルギー分野では再生可能エネルギーの主力電源化や分散化などが不可逆的に進んでいる。東京大学と日立製作所は,2016年に設置された「日立東大ラボ」で,よりよい社会を実現するための協創に取り組んでいる。東京大学の吉村忍副学長が語る,Society 5.0を支えるエネルギーシステムとは――。
脱炭素化への貢献をめざす日立のエネルギー事業
オープンな「協創」でエネルギーの新たな価値を創出
脱炭素化に向けた再生可能エネルギーの導入が進む一方,データセンターの規模拡大などの新たな需要が生じ,エネルギー業界は大きな転換期を迎えている。社会・環境・経済の三つの価値の向上などを目標に掲げて社会イノベーション事業に取り組む日立は,エネルギーをめぐる課題の解決にどう貢献していくのか。フリーキャスターで千葉大学客員教授の木場弘子氏を聞き手に,日立製作所執行役専務の小田篤が語る。
デジタル技術がエネルギーシステムを革新する
データを活用したマネジメントが再生可能エネルギー導入のカギに
脱炭素社会への世界的な潮流が加速する中,小売自由化をはじめとする電力システム改革を機に,よりスマートで強靱なエネルギーシステムの構築をめざす動きが広がっている。デジタル技術によって導かれる,近未来のエネルギーシステムの姿とは。エネルギービジネス戦略に精通する西村陽氏と,先端エネルギーシステムの研究で知られる林泰弘氏を迎えて語り合った。
持続可能な社会をめざす電力分野のデジタルイノベーション
北米におけるパワーグリッド向けデジタルソリューションビジネスの創出
IoTやAIに代表されるデジタル技術の進展は,エネルギー業界に大きな変革をもたらそうとしている。供給側と需要側の一体運用の強化,基幹系統に頼らない需給構成の増加など,電力事業の在り方に変化が起き始めている。こうした中,日立は顧客課題を起点にみずからの総合力を生かしたデジタルソリューションビジネスを創出するため,多様な電力事業者を抱える北米で協創活動を展開している。
エネルギーの最適利用を実現する持続可能なソリューションの協創
英国におけるEV普及拡大による気候変動対策
経済の発展と人口増加,急速なグローバル化によって大気中の温室効果ガスの濃度は過去最高レベルに達しており,温室効果ガスの排出量を削減する戦略の一つとして,自動車の内燃機関の超低炭素およびゼロ炭素化技術が検討されている。こうした中,日立ヴァンタラをはじめとする日立グループは,英国のEV普及拡大を支援するコンソーシアム「Optimise Prime」に参画している。
GLOBAL INNOVATION REPORT
世界で進む高圧直流送電(HVDC)の導入とその背景
従来,日本国内では交流を用いた系統連系が主流であった。しかし現在では,世界中で急速にHVDCの導入が進みつつある。この背景には,再生可能エネルギーの導入や広域電力取引の拡大,電力供給信頼性の向上ニーズの増加に加え,HVDCによる連系強化の経済合理性が実証されてきたことがある。ここではHVDC市場の現況について,特に自励式HVDCに絞って概説する。
FEATURED ARTICLES
次世代のエネルギーを実現するイノベーション
脱炭素社会に向けた取り組みが世界的に広がる中,エネルギー市場では規制緩和とデジタル技術によって,供給側・需要側の双方にパラダイムシフトが起きつつある。ここでは「パワーグリッド」,「分散電源ソリューション」,「エネルギーマネジメント」の三つの分野にスポットを当て,脱炭素社会の構築に貢献する日立の技術とエネルギーソリューションを紹介する。
Overview
Articles
[ⅰ]パワーグリッド
- 動的に変化し続ける電力システムの創造
- デジタル技術を活用した配電事業を取り巻く社会の将来像
- 広域機関システムから次のIT×OT融合システムへ
- 飛騨信濃周波数変換設備の特長技術
最新の直流送電プロジェクト - 高度センシング技術を適用したデジタル変電所の実現
[ⅱ]分散電源ソリューション
- 発電事業者向け経営課題解決型ソリューションの提供
- 東ソー株式会社四日市事業所 H-25ガスタービン発電設備更新プロジェクト
- 自家消費PV発電と自己充電EVのシステム連携ソリューション
- 地産地消型の分散電源を実現する地域エネルギー供給ソリューション
[ⅲ]エネルギーマネジメント
原子力分野における日立の取り組み
温室効果ガスを排出しない原子力発電との共存は,脱炭素社会実現の重要な要素となる。ここでは,福島第一原子力発電所の廃炉に向けたロボット技術開発,初期投資リスクの低減,長期的な安定電源の確保,放射性廃棄物の有害度低減を実現する新型炉の開発状況,そして原子力の技術や知見を次代につなぐナレッジマネジメント活動について紹介する。