2023 Vol.105 No.3 Energy Solutions to Achieve Decarbonizationカーボンニュートラル社会の実現に向けたエネルギーシステム
電源のゼロエミッション化や電力系統のレジリエンス強化,省エネルギー,非化石エネルギーの導入拡大など,需要側と供給側の双方でカーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みが続いている。
本特集では,エネルギーの安定供給と脱炭素の両立をめざす日立のエネルギー事業の今後の方向性と新たな取り組みを中心に,さまざまな社会課題を解決し,人々のQoL向上と顧客の企業価値向上に資するパワーグリッド,エネルギーソリューション,ならびに原子力分野での活動について紹介する。
Cover Story
カーボンニュートラルに向けた取り組みにおける政策課題
ともすればこれまで負担面が強調されがちであった地球温暖化対策を,新たなビジネスモデルを創出し,産業構造を転換する機会として捉える機運が高まりつつある。これに伴い国内では,GX経済移行債の発行やカーボンプライシング導入を盛り込んだ法案の成立など,カーボンニュートラルの実現に向けたさまざまな取り組みが進んでいる。
カーボンプライシングの前提となるGX投資促進策において,留意すべき事項とは。東京大学の大橋弘副学長が論じる。
持続可能な未来のために「今」のあり方を問い直す
気候変動が深刻化する中,現在では多くの国や地域が2050年までのカーボンニュートラル達成といった目標を掲げている。欧州諸国は長年にわたって環境問題の重要性を主張し,具体的な政策やカーボンニュートラルのための資金提供スキームなどを通じて,世界の脱炭素化をリードしてきた。
カーボンニュートラルを実現するうえで重要なポイントはどこにあるのか。また,島国である英国の取り組みとは。Imperial College London Vice-ProvostのMary Ryan教授に話を聞いた。
データの利活用を通じた商用車両のゼロエミッション化促進
英国におけるOptimise Primeの取り組み
日立は過去4年間にわたり,英国における商用EVイノベーションプロジェクト「Optimise Prime」を通じて, 英国内の主要なフリート事業者,配電事業者,技術提供者といったパートナー企業を主導しながら,商用EVの利用に関するデータを収集し,電力インフラへの影響を軽減するための新たな手法を検証してきた。英国全体で本プロジェクトに関わったEVの台数は,当初の目標を上回る8,000台超に上り,配電事業者や自治体は収集されたデータをEVの充電需要を満たす計画立案に活用することができる。
ここでは,プロジェクトを通じて得られた成果と今後の展望について紹介する。
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて
GX推進に求められる施策と技術
エネルギーを取り巻く環境が大きく変化し,市民生活や企業活動に大きな影響が生じつつある中,CO2排出量の削減と暮らしやビジネスの安定化という二つの側面から,エネルギーの安定供給と安全保障を実現するための取り組みが求められている。
カーボンニュートラル実現という大きな目標の達成に向けて,今後どのようなエネルギーの仕組みを整えていくべきか。一般社団法人電気学会の第109代会長を務めた勝野哲氏,国際環境経済研究所理事で東北大学特任教授の竹内純子氏を迎え,脱炭素社会の実現に向けたビジョンを共有するとともに,GXの推進・実行に向けた具体的な取り組みについて論を交わした。
GLOBAL INNOVATION REPORT
世界で加速する高圧直流送電(HVDC)の現在
カーボンニュートラルの実現に向けて,広域でのリソース・リザーブの共有や,再生可能エネルギーの遠距離連系を実現するための高圧直流送電(HVDC) は,今や脱炭素化に不可欠なキーテクノロジーの一つとなっており,現在,世界中でHVDCの建設が急速に進みつつある。
日立エナジーは,HVDCのパイオニアかつリーディングカンパニーとして,この活発なHVDCの需要に応えるべく取り組みを進めている。ここでは,最新のHVDCの市場動向や技術動向について解説する。
24/7カーボンフリーエネルギーの実現に向けたデジタル化の動向と取り組み
カーボンニュートラル社会の実現に向けて,天候によって発電量が変動する再生可能エネルギーを常時有効活用する24/7カーボンフリーエネルギーの取り組みが新たなトレンドとなっている。日立は24/7カーボンフリーエネルギーの標準規格化を推進するEnergyTagイニシアチブなどに参画しながら,日立エナジーと共にデジタル技術を活用したソリューションの具体化を進めている。
ここでは,細粒度のデータを用いたデータドリブン志向でカーボンニュートラルに向けたDXサイクルを実行し,社会の脱炭素化へ貢献する日立の取り組みについて紹介する。
電力システムのレジリエンスを確保するためのデジタル化の動向
エネルギー事業において,サービスを継続的に提供するためのレジリエンス強化は重要な課題の一つである。一方,電力会社は設備の老朽化や,サイバー攻撃といったさまざまなリスクに直面しており,対策を迫られている。これに対し,リスクから実際にインシデントが発生した場合にはそれを速やかに察知し,影響を軽減するレジリエンスが重要である。
ここでは,リスクを理解し,その影響を軽減するレジリエンスの強化に向けたデジタル化の動向と,フィールド作業管理のソリューションの取り組みを紹介する。
FEATURED ARTICLES
持続可能なエネルギーの未来へ向けたパワーグリッド
再生可能エネルギーを通じた発電の脱炭素化が進展する一方,持続可能な社会の実現に向けては,こうしたエネルギーを最適かつ効率的に活用するための送配電技術が不可欠である。ここでは,高圧直流送電(HVDC)とその制御技術をはじめとした,エネルギーの供給・活用を支える日立の取り組みと事例について紹介する。
GXを実現するエネルギーソリューション
GXの取り組みが広がる中,脱炭素化を実現するためのカギとして再生可能エネルギーが注目を集めている。一方でその利活用にあたっては,安定的な電力供給に向けて解決するべき課題も多い。ここでは,効率的な系統運用に関わる技術や,風力発電ソリューションなど,再生可能エネルギーの導入・拡大を支援する日立の取り組みについて紹介する。
脱炭素社会を支える原子力発電システム
エネルギー安全保障の問題が顕在化する中,持続可能な社会を築いていくためには,安全性を高めたうえで経済効率性や環境適合に優れる原子力発電を活用することが必要である。ここでは,革新的な新型炉開発をはじめとした,原子力発電の再稼働と安全・安心な活用に向けた日立の取り組みについて紹介する。
PERSPECTIVE:
未来のエネルギーシステムを支える産学連携
日立エナジーは,持続可能なエネルギーの未来の実現に向け,公益事業,産業,インフラのバリューチェーン全体にわたる革新的なソリューションとサービスを提供している。
ここでは,Hitachi Energy India Limited CTOのAkilur Rahmanが,先進技術に携わるパイオニアやネットゼロ関連の起業家の将来的な育成を念頭に,エネルギートランジションの促進に向けて既存の枠組みにとらわれない考え方を醸成するための産学連携強化,多様性への投資の必要性について述べる。